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「はー腹減ったー。俺、今日大盛二杯くらい食べられるっすよ、かいちょー」
「そんなこと言って、どうせすぐ腹一杯になるんだよ、お前は」
「ならない!」
前を歩く会長と住田が楽しそうに言い合っている。俺はああいうテンポのいい会話が出来ないから、すごいと思う。

「京は、夕飯何が食べたい?」
「えっと、……」

隣の副会長が尋ねてきた。夕食、何食べようか。昨日は魚を食べたから、今日は肉がいい。肉料理……、ハンバーグか?
考えながら、早く答えなくてはと少し焦って、ちらりと横目で副会長を見ると、前を向いたままの顔は優しく笑っていた。ほっと安心したら食べたいものが浮かんだ。

「俺、しょうが焼き食べたいです」
「あっ、いいねぇ。俺も、しょうが焼きにしようかな。あの定食についてくる味噌汁ってさ、具がワカメと豆腐でしょう。俺、味噌汁の具は、それが一番好きなんだよね」
うんうんと大きく首肯く。俺も、豆腐とワカメが美味しいと思う。

「ジャガイモの味噌汁も、好きです」
「うわー、好き! 俺たち、味噌汁の趣味が合うね」

はい、と答えた後で、味噌汁の趣味が合うって、ちょっとおかしな言葉だと思った。つい口元を綻ばせたら、先輩も後からおかしくなったのかあはは、と笑った。

「味噌汁の趣味が合うってなんか変な言い回しだね、自分で言ったのにおかしくなったよ」
二人で笑っていたら、会長が振り返って、片眉を上げた。

「おいおい、なに二人で楽しそうにしてんだよ。何の話?」
「ふふふ、俺たちが仲良しだなって話。ねえ、京」
「はい」

仲良しと言われたのと、眼鏡の奥の優しい目が嬉しくて、もっとにやけながら頷くと、「えーずるいずるいっ、俺も仲良しに入れてぇ」と住田がわざわざ少し戻って俺に抱きついてきた。

「いいよ、住田。じゃあ、好きな味噌汁の具は?」
「えっ、味噌汁? 俺はあさりが一番好きですよ!」
「うわあ、贅沢じゃない? 俺だって好きだけど。判定はどうかな、京」
「あさり、滅多に食べないけど俺も好き」
「よし、じゃあ住田、豆腐とワカメの味噌汁は好き?」
「好きですよー、美味しいですよねぇ」

それがなに? というふうに首を傾けた住田の肩を、副会長がぽんっと叩く。

「おめでとう、住田も俺たちと仲良しだよ」
「えーっ本当ですかー? よくわかんないけど、やったぁ! 京ちゃん、仲良しだよー!」

住田がぴょんぴょん跳ねる。仕草は可愛いのだが、その身長が平均をすっかり越えているせいでなんとも言えない。
俺はぴょんぴょんする住田にやや揺さぶられながらそうだな、と答えた。食堂に向かう足はすっかり止まっているし、住田の体越しに見えた会長は何が何だかという顔をしていた。





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