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なんとか無事に式を終えて、現在、生徒会室。力尽きてずっと机に突っ伏したままの俺にお咎めはない。やらなければいけない仕事はもうとうに終わっているからだ。まだ仕事を終えていないのは住田だけ。
会長たちや俺がすることのない生徒会室にいるのは、別に、住田を待っているわけではない。たんにここが居心地のいい場所だからだ。
人気がありすぎて自室と生徒会室以外ではおちおち気を抜くこともできない会長・副会長と、会話が出来る人が生徒会メンバーだけという、いわゆるぼっちな俺。理由は真逆だが、ここが寛げる場所であることに変わりはない。
住田は、人気はあるが親しみやすい性格が幸いしてか、必要以上に崇め奉られたり騒がれまくったりしないし、ましてや俺のようにぼっちなどではない。だがやはり、生徒会室で役員と過ごすのが好きらしいから、ここは俺たち全員にとって仕事の場であるとともに憩いの場でもあるのだ。
「京、お前、なんか力尽きてるけど上出来だったぞ?」
まだ期限の遠い書類に手をつけていた会長が、ふとそんなふうに労ってくれた。男前という字を人間にしたらこうなったのだろうと考えたくなるような格好いい顔を見て、ありがとうございますとのろのろお礼を言う。
「そうだよ、京。全然失敗しなかったね、偉い偉い」
「京ちゃんえらーい」
他の二人にまで褒められた。周りからしたら当たり前に出来ることなのだろうけれど、俺にとっては大層な大仕事だったから、褒められると嬉しい。
どういう表情をするべきか分からず俯くと、「京ちゃんは照れ屋だなー」と妙に微笑ましげに言われてしまった。うるさいと返してソファーの方に行く。
生徒会室はほとんど役員しか入室しないのに、何故か応接スペースのようなものがある。ソファー二脚と、それに挟まれるようにして置かれた重厚なテーブル。どちらも俺たちの休憩以外で使われているところを見たことはない。
柔らかいソファーに深く腰掛けると小さくあくびがでた。昨夜は、式の司会のことで緊張していてよく眠れなかったせいか、今ごろになって眠気がやって来たようだ。
「あれ、京ちゃん寝るの?」
「ねない……」
うとうとし始めると、ソファーに座っている様子が見える位置にデスクのある住田が声をかけてきた。目を瞑ったまま返事をする。あやふやな、ぼやけた声が出た。京ちゃんおねむだー、と住田が楽しそうに言ったのが聞こえた。住田はいつも、大抵ご機嫌だ。
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