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「張り合わないの、住田」
副会長がいつもの調子で窘めた。
「だってー、侑真、京ちゃんと手繋いでたし! まだ顔合わせてから全然経ってないのに〜。」
「ああ、そういえば住田と京は、仲良くなるまで少し時間がかかってたね」
「そうですよぉ、ずるい侑真!」
確かに、住田と仲良く、というか、まともに会話が出来るようになったのは少し遅かったかもしれない。住田はいつも人に囲まれているようなタイプで、俺に対しても、初めからとてもフレンドリーだった。
そんな人間とちゃんと関わるのはほとんど初めてに近かったため、どう反応すればいいか分からなかったのだ。いや、どう反応すればいいかわからないのは住田のような相手に限った話ではない。だから、つまり俺は、にこにこしながら話しかけてくれる相手に気後れしていたのだと思う。
不服げな顔をする友人に、何か言葉をかけた方がいいだろうかと熟考していると、何気無い調子で会長が口を開いた。
「お前らみたいな全然違うタイプの奴らが仲良くなるには、時間がかかるのも普通なんじゃないか? 俺と白峰だって、最初はしばらくただの同僚って感じだったよな」
「えっ、そうなんですか?」
「ああ、うん、そうそう。席が隣り合ってるとかでもなかったから、挨拶だけして、あとは自分の仕事覚えてこなすのに一生懸命だったよねえ」
懐かしそうに話す二人。へー! と少し大きな声を出す住田と同じ反応を、内心で俺もしていた。今はとても息ぴったりの先輩たちにそんな時期があったなんて不思議だ。
「やっぱ、同学年と後輩じゃあ、少し違うもんなんでしょうね」
「そうだな、後輩だと年下っていう余裕もちょっと出るしな」
「ふーん、そっか、そっか。ならいいやっ、京ちゃんの親友は俺だもんね! ねー、京ちゃん?」
福井くんが微笑して言う。それを会長が肯定して、すると住田の顔がさっと明るくなった。笑顔でまた聞かれ、今度は先程よりも大きく首を縦に振った。
住田が親友だと言ってくれるのはとても幸せなことだし、そう言ってくれるから俺も住田を親友と思えるのだ。そうでなければ、相手は俺をそれなりに話をする相手くらいにしか思っていないのでは、と後ろ向きな疑念に捕らわれているだろう。
「俺は、住田のこと好き」
「わーっ! 俺も好きだよ京ちゃん〜!!」
テーブル越しに身をのりだそうとした住田の肩を副会長が「こら、危ない」と押し止めて、福井くんがさっと傍にあった水入りのコップをどかした。
「あー、今ハグしたかったのにぃー!」
「こんなところでしたら、二人ともお腹がぐえってなってしまうよ」
「後で存分にしろ、ほら飯だ、めし」
ぱたりとテーブルの上に腕を投げ出した住田の頭を会長が押し上げた。その言葉の通り、傍らにやってきた食堂のスタッフ二人の手には湯気をたてる料理が載っている。
苦笑気味の彼らに皆で会釈して礼を言い、配膳をしてもらった。
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