▼3


◇◆◇

「わー、近くで見るとほんとにイケメンだねー。会長並みじゃね?」

反応に困ったような顔をした福井くんが隣で身動ぐ。まじまじと彼を見つめる住田の肩を、副会長が苦笑気味にぽんぽんと叩いた。

「そんなにじっと見られたら居心地が悪いでしょ、住田。やめてあげなさい」
「あ、はーい。ごめんね、福井くん」
「あ、いえ。全然。褒めてくださってありがとうございます」

会釈する福井くんに、住田は「礼儀正しい後輩だー」と嬉しそうにしている。顔合わせということでソファーに並んで座った俺たちの位置は、いつもと違う。普段は副会長と住田の定位置である、扉に背中を向けるソファーに俺と福井くんが座り、向かいの、いつも俺と会長が座るところにその二人。会長は、背もたれに腕を載せて、会話に耳を傾けている。
それぞれの自己紹介も終わり、空気が緩んだ今、俺は任務を遂行した安心感から背もたれに体重を預けきってぼーっとしていた。そうすると、先程福井くんと手を繋いだまま入室してしまって皆に驚かれたことを思い出して、羞恥心で頭を抱えたくなった。

住田の面白いものを見たという目と、副会長の微笑ましさと驚きの入り雑じった顔、そして会長の訝しげに寄せられた眉。一瞬の出来事を自分でも驚くほど詳細に思い出して、皆は後輩に世話を焼かれているようにも見える状態だった俺に呆れなかっただろうかと不安になる。
福井くんはおどおどしている俺を見かねて手を引いてくれたのだから、あながち間違いとも言えないのだが。

なんなんだ、俺は多方面に迷惑をかけているのではないか? どこが任務遂行だ。


「京先輩」

精神的には地面にのめり込みそうだったが、実際は頭をぐたりと垂れたくらいだった。その視界に入り込もうとするように座ったまま体を屈めた福井くんに覗き込まれて、しゃっと背筋が伸びた。はっとしたら、口からも「はっ」と声が出てしまった。

「なに―?」
「いや、なんか急にテンション下がりました? 大丈夫?」
「え……テンション―。えっと、大丈夫」
そうすか、と言った後は、それ以上追求する気もないようで、そのまま副会長と仕事のことについての話をし始めた。

福井くんは、観察眼が優れているのか空気を読むことに長けているのか、互いに馴れ合っていない今でもあっさりと様子を見抜くから、驚きである。
ちらっと横顔を窺う。彼が年下だということが不思議だった。本当に俺は、彼より一年分長く生きているのだろうか。

お前はただ時間を空費してきただけだろう、と辛辣な声を聞く。俺のなかで、いつも俺の至らぬところを容赦なく責める声だ。それは自己嫌悪から出来ていることを俺はよく知っている。
その言葉は俺にとっていつでも正しい。耳を塞ぎたくなる。そうしたって意味はないのに。

人以上などと望めば高望みが過ぎるだろうが、せめて皆が当たり前に出来ることは俺も出来るようになりたい。人と笑って話したり、自分の意見をはっきり主張したり、必要以上に人目を気にせずに歩いたり。
羅列してみてから、俺はちゃんと頑張りたいと思っているのだ、と気が付いた。ちょっと進歩している。

前は嫌なことはどうにも嫌で、自己嫌悪しながらもどうやって逃げるかばかり考えていたのだから。そっと顔を上げて、福井くんに年間の行事のことを教えている会長を見る。俺の理想の最高峰みたいな人。俺がこんなふうにできたらいいなと夢想することを現実にこなす人。
そんな会長が俺のことを考えてくれて、その考えを伝えてくれたから、俺は頑張ろうと思えているのだろう。否、間違いなくそれが理由だ。素晴らしい人は人に与える影響も著しい。


「どうした? 京。疲れたか」

俺の方を見た会長に首を振ってから、へらーと笑う。会長は少し驚いたような表情を浮かべてから、笑顔を返してくれた。
多分、手が届く場所にいたら頭を撫でてくれたのに。ちょっとだけ残念だった。







back