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新入生に物凄く容姿端麗な男がいる、と驚いた顔をして言ったのは副会長だった。彼が人の容貌について口にするのは珍しい。そう思ったのは自分だけではなかったようで、会長などはどこだよとわざわざ折り畳み椅子から腰を上げた。
Bクラスの列の後ろの方、と副会長が説明する。会計が俺も見たい! と好奇心いっぱいの明るい声を上げて首を伸ばす。

俺は、あまり興味がなかった。誰の顔がよかろうがまずかろうが、俺に影響はないし、第一この学校は妙に見た目の整ったふうな人間が多いのだ。今さら騒ぎ立てることでもないと思う。俺にとってはそんなことよりも、これから始まる入学式の司会という大役の方がよほど重要だ。
人前で話すのは得意とは言い難い。まして、マイクを通して自分の声が体育館中に響くなんてとても嫌だ。会計がやってくれればいいのに、と散々会長に訴えた文句をまた心中で呟く。住田は普段の調子のままふにゃふにゃ喋るから駄目だ、と同じ答えを返されるのは目に見えていた。

会長は在校生代表の挨拶をするし、副会長は祝電を読み上げたり来賓の世話をしたりと大変だ。俺か会計が司会をしなければならなくて、それが公的なものならば会計が適していないことなど織り込んでいる。
だから、仕方がないのだ。やるより他にない。失敗せずになんとかやりすごして、それだけだ。言い聞かせて深呼吸をする。全く酸素を取り込めた気がしなかった。式典なので、いつもよりきっちり締めたネクタイのせいかもしれない。心臓が苦しいのは、多分第一ボタンまで閉めているせいだ。

「―京、大丈夫?」
新入生についてわいわいと盛り上がっていた三人のうち、副会長がふと俺を見て尋ねてきた。眼鏡の奥の目が、いつもとても優しいから好きだ。
なにがですか、と平然を装って聞いたつもりだったが、出てきた声は渇いて掠れていた。振り返った会計の住田が目を丸くする。

「京ちゃん、声ちっさ! 大丈夫かー」

隣に戻ってきて、俺の顔を覗き込む。副会長と同じことを聞くので、当たり前だというふうに頷いてみせたら、会長に肩を叩かれた。

「京。水分とれ、ほら」
ペットボトルを渡された。俺は水分なんて持ってきていないから、これは会長のだ。ありがとうございます、とぼそぼそ呟いて飲む。冷たいミネラルウォーターだ。からからだった口の中と喉が潤う。小さく咳払いをしていると、反対隣に腰かけた副会長に背を擦られた。

「あんまり緊張しなくても、大丈夫。この紙に書いてあることをゆっくり読み上げればいいからね。」
「そうだぞ、京。ちょっとくらい噛んだって、誰も怒りゃしねえし」
「怖くないよぉ、京ちゃん」
「別に、怖がってない。ちゃんと出来るし」

優しい先輩二人の声かけにはそれぞれ頷いたが、幼子に言うような住田の口ぶりにむっとしてしまう。反駁すると、会長にわしゃわしゃと頭を撫でられた。一人っ子の俺は、こういうふうに接してくれる会長をこっそりと兄のように慕っている。

「さて、新入生を眺めているうちに意外と時間が経ってたね。そろそろ始まるよ」
腕時計に視線を落として、副会長が言う。さっきまでのふんわりした声ではなく、穏やかながらきりっとした声音になる。会長は、少し離れた来賓席と職員席に目をやってよし、と頷いた。

「じゃあ、京、始めるぞ」
「は、はい」

肩を叩いて言われ、どもってしまった。ぎこちなく立ち上がる。副会長からマイクを渡された。まずは、このざわめきをおさめなければならない。俺は震える息を吸って口を開いた。






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