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俺は彼の言葉をゆっくりと呑み込み、理解して、震えた。
「かい、会長……おれ、おれ、そんな―」
声まで震える。ご褒美など、畏れ多いことだった。そんな好意を貰えるようなことを、俺は出来ていない。だって、勧誘や連絡を頼まれたのが住田だったら、きっと二つ返事で引き受け、すんなりこなせて、福井くんとも、とっくに仲良くなれて、もっと、ずっと俺より上手にこなせただろう。
俺がやったのは、そういう、簡単に出来るはずのこと。俺にとって大変だったのは、俺が出来損ないだからという、それだけの理由なのに。なのに、そんな。
「俺、全然、ちゃんとしてないです。……から、先輩にそんなことしてもらえる資格、ありません」
会長の気持ちがとても嬉しいのに、そうしてもらえるほどの働きが出来ていないことが悲しい。好意を素直に受け取れないのも、悲しい。俺は本当に、面倒臭い奴だ。俺が皆だったら、こんな人間は放っておく。
「でも、京、頑張ったでしょう」
俯きかけた俺に、前から声がかかった。にこにこ笑う副会長を見て、疑問符を浮かべる。
「俺たちは、京が苦手なことなのに頑張ったって知ってるし、実際に結果として、勧誘も成功してる。お前は、ちゃんとしてるよ、京」
「……白峰先輩―」
慈悲に溢れた言葉と、木漏れ日のような笑顔。まるで仏様のような副会長を前に、俺の視界がぼやけ出す。
俺は、優しい人に囲まれているから、なんとか生きていけているのだと心から思う。
「泣くなよぉ、京ちゃん! いい子、いい子」
「住田、痛い……」
身を乗り出した住田に頭を撫でられる。遠慮のない手つきが痛いが、口元は少し綻んでしまう。
「よしよし。じゃあ、プリン食うな? つーか、美味そうに食ってるとこ見たいから、うんって言いな? 京」
「……ありがとう、ございます」
頬杖をついた会長の、表情も言い回しも優しい。ぐすぐすと鼻を啜りながら、首を縦に振る。こんなに人が大勢いるところで泣くのは恥ずかしいので、涙が溢れないように必死に我慢する。
皆はいつも優しい。その優しさが、憐れみでもなんでもないと知っているから、俺は優しくされると、嬉しさと感激で泣きそうになったり、俺には勿体無いと悲しくて泣きそうになったりするのだ。
俺は泣き虫ではないので、彼らの優しさには涙腺を緩める効果があるのだと思う。俺は皆が、すごく好きだ。俺も、優しくしたいと思う。
涙を落とさないよう、忙しく瞬きを繰り返している俺の、テーブルに載せていた左手を握って小さくゆらゆらさせながら、住田はねだるように会長の顔を上目遣いで見た。
「ね、かーいちょ。俺にも奢ってください! ガトーショコラ食べたいっすー」
「うん、京は、住田くらい遠慮のなさを身に付けてもいいな」
「そうだねえ。まあどっちにしろ、可愛い後輩だよ」
「えっ、副会長、俺って可愛い?」
「うん、可愛いよ。おーよしよし」
「あっ、それ完全にペットを見る目ですよね!?」
犬のように撫でられている住田。くふっと笑ってしまった。それを見た会長が、俺の頬をむにむにと指先で柔く摘まむ。
大人しくされるがままになりながら、俺は温かくて楽しいこの空間がずっと続いたらいいと思った。
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