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「京が、いつもどういう思考回路を辿ってんのか、いつか全部分かるようになんねえかな。マイナス方面に傾いているときなんかは、けっこう察せられるようになってきたと思うけど」

マイナス方面。そうかもしれない。俺がぐるぐるして自己嫌悪で落ち込みかけたとき、会長が気付くことが、結構ある。
口に出していないのに分かってしまうなんてすごいなぁ、と思っていたけれど、そうか、会長は、俺がどんなふうに考えるのかということを気にしてくれていたのだ。それは、嬉しいことだと感じる。俺のことなどを気にかけさせてごめんなさいと思うよりも、嬉しい嬉しい、と跳ねまくる気持ちの方が明らかに比重が大きい。

どうしようもない気持ちをどう発露すべきか分からなくて、隣の肩にごつんと額をぶつけた。いてえよ、と笑いが混じった声がする。
ごめんなさい、と食堂の賑やかしさに紛れそうな声で謝る。

「かいちょーと京ちゃん、なにしてんの? ご飯選びましょー」
「おー。ほら、京」

副会長と住田は、二人で話をしていて、会長と俺のやりとりは見ていなかったらしい。不思議そうに話しかけられて、会長は、俺の頭をぽふぽふと叩いた。顔を上げる。

「なに食う?」

タッチパネルのメニューを引き寄せて言う会長の手元を覗き込みながら、俺はここ最近食べたものを思い出す作業に取り組み始めた。



◇◆◇

「よし、京。プリン買ってやる」
グラタンの最後の一口を掬う。口に運ぶ前に、唐突にそう言った隣の人に、顔を向けた。もう食べ終わっていた会長は、いつも通りの表情で手遊びのようにメニューを弄っている。

「かいちょー、なんでプリン?」
「住田、知らねえのか。京は、食堂のミルクプリンが一番好きなんだぞ。なあ、京」

俺も疑問に思ったことを、住田が代わりに問うたが、返ってきたのは、おそらく、俺や住田が求めた答えではなかった。話を振られたので、事実、ミルクプリンが好きな俺は、はい、と答える。
スプーンに掬ったままだったグラタンを口にいれる。ほとんど冷めかけているが、それでも美味しい。

「京ちゃんがミルクプリン好きなのは、俺だって知ってますし。会長だけが、京ちゃんのことよく知ってるわけじゃないんすからね!」
「ああー? なんだ、その喧嘩腰な態度は。そんなこと言うのはこの口か?」

「うーっ、ほっぺ引っ張んないでくださいー! ふくかいちょー、助けてぇ」
「はいはい、他の人の目もあるんだから、喧嘩しない」
「あいよ」
「もーっ、暴力反対っすよ、会長! てか、そうじゃなくてぇ、俺が聞きたかったのは、なんで急にそんなこと言い出したのかってこと! です!」

口内のものを咀嚼しながら、住田と会長に交互に視線を向けて早いテンポの会話を聞いていると、副会長が二人を窘めた。あっさりと離された頬は、少しだけ赤くなっている。住田は、むくれながら頬を撫でて文句を言った。
食べ終えたグラタンにご馳走さまでしたと手を合わせてから、俺も、また会長を見る。目が合った。


「んー。京、勧誘ちゃんと出来たし、福井への連絡も嫌がらずに引き受けたし、頑張ってるからちょっとしたご褒美になるかなーと思って」

別に、プリンじゃなくてもいいよ、と笑いかけられる。






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