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「#甘々」のBL小説を読む
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食堂は、いつも人でいっぱいだ。だから本当は、席を見つけるのに苦労するのだろうけれど、人気者の会長たちには、率先して席を譲ろうとする人達がいる。
声をかける口実に出来るから、というのが理由だと思う。それくらい、みんなは好かれているのだ。俺も、いつもその恩恵にあずかって席に座ることが出来る。ちゃんと四人分の席を譲ってくれるから、優しいと思う。

今日もやはり、知らない人が副会長に声をかけた。ここどうぞ、と言われた副会長は、その席にいた三人の生徒に向かって、「ありがとう」と眼鏡の奥の目を細めた。
会長と、住田も軽くお礼を言って、俺も言わなくちゃ、と会長の後ろからこっそり顔をだす。そうしたら、すごく俺のことを見ていたらしい三人のうちの一人と目があって、びくーっと胃が跳ねた。気がした。


「―……、ありがとう」

喉に張り付きそうになった言葉を、なんとか捻り出す。言えた、とほっとした瞬間に彼ら三人のネクタイの色を認識して膝から崩れ落ちそうになった。深緑は、三年生のカラーである。
俺は敬語を使わなかった。せっかくお礼を言えたと思ったのに、三年生相手にタメ口だったら、言えてないのと同じではないだろうか。生意気で不快な奴だと思われたかもしれない。このまま会長の後ろに隠れてしまいたい。しかし、そんなことをしたらもっと駄目なやつだ。

一瞬で思考がぐるぐる回ったが、俺と目が合っていた人は、「どういたしましてっ」とこちらがびくっとしてしまうほど意気込んだ様子で返事をしてくれた。しかも、笑顔で。不快さを感じているようには見えなかった。俺は、驚きに満ちてその人を見つめた。
その驚きには、既視感があった。福井くんのクラスを訪ねたときに、彼を呼びだしてくれた生徒も、こんなふうに、俺に対応してくれた。
すごい。世界は優しさで満ちている……?

俺が感激しているうちに、速やかに席の交代が行われて、はたと気が付いたときには、俺は会長に背中を押されて椅子に座っていた。

「ぼんやりして、どうした? 京」
「世界に満ちた優しさを噛み締めてました」
ほうっと息をつく。隣に座った会長が、未確認の興味深いものを見るような顔で、俺のことをじっと見た。

会長は、たまにこういう表情をする。多分、宇宙人やツチノコを見つけたときも、彼は同じ顔をすると思う。俺は、その度に変なことを言ったかな、と一瞬不安になって、何も喋らなければよかったと一瞬後悔する。
けれど、会長は必ず、すぐ後にとても優しい目で笑って、俺の中の煙のようなわだかまりを吹き飛ばしてしまう。今回も、同じだった。






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