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「俺と京ちゃんで、仕事を教えることになるんだろうね」
「う、ん。俺、ちゃんと出来るかな」
「出来るでしょー。京ちゃん、俺がわかんねーってなったときに教えてくれるの、上手だし」
「ほんと?」
「もちろん!」

住田の声は、しっかり声変わりをして、男の声になっているのに、少年っぽさが消えていない。アイスクリームとさくらんぼを浮かべた、メロンソーダのようなイメージ。我ながら、ぴったりの例えだ。
ちょっとした満足感を抱いていると、ご機嫌だねぇ京ちゃん、と笑われた。


生徒会室には、まだ、3年生は来ていなかった。電気をつけて、まずは掃除をする。別に、掃除は決まり事ではない。でも、俺はいつでも綺麗なのが好きだし、メンバーの皆も、綺麗にしてあれば気持ちいいと思うから、生徒会に慣れた頃からいつもしている。
そして、俺がしていると、大抵誰かが「俺もするよ」と一緒にやってくれる。気を遣わせてしまっているのだろうが、共有の場所だから、手を借りてもいいかなと、有り難く手伝ってもらっている。

今日も、住田が当たり前のように床を掃き始めた。俺は生徒会室専用の給湯室から清潔な台拭きを持ってきて、それぞれのデスクを拭いていく。
つくづく、この学校の設備はいい。その辺りにある学校ならば、おそらく生徒が委員会活動で使用する部屋に給湯室などつけない。生徒会の仕事が普通の学校よりも多い、というのも要因なのかもしれないが。

ソファーの前のテーブルには、副会長が、園芸部の部長に貰ったと言って持ってきていた花が、花瓶に入れて飾られている。名前が分かるのはチューリップくらいだが、色とりどりの可愛い花たちだ。
男ばかりの空間だが、こういうものがあると、少し華やいだ風になるからいいと思う。園芸部の人にそっと感謝をする。直接は言えないので、こっそりである。


使い終わった台拭きと一緒に花瓶を持って給湯室に行く。花瓶をスポンジで綺麗に洗い、鋏で茎の根元を斜めに、少しだけ切る。こうすると給水しやすくなり、花が長く生きられるのだとか。
水を入れ替えてから戻ると、ちょうどその間に会長たちが来ていたらしい。二人に揃って挨拶をされ、俺は花瓶を抱えたまま会釈をした。

「あ、水替えてくれたんだね。ありがとう、京」
副会長は、ありがとう、と口にするとき、必ず表情もありがとう、と思っている表情になる。いつだって言葉だけでなく、心から感謝をすることが出来る人なんて、多分、滅多にいないと思う。

俺は副会長にありがとうと言われたら、幸せになる。心がほわほわとして、顔が勝手に笑ってしまうのだ。
テーブルの中央に、そっと花瓶を戻すと、すぐそばに立っていた会長が「いい子だな」と言いながら俺の頭をわしわし撫でた。頭ごと揺すられて、ぐらんぐらんしたが、褒められるのはいつでも嬉しいので、抗議はしなかった。




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