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「へえ、生徒会」
福井くんはそういって、頷いた。それで? と左右対称に並んだ美しい形の目が言う。俺は再度切れそうな呼吸を落ち着けるため、深く息を吸った。
俺が本題を切り出すことが空気で伝わったのか、福井くんがやや姿勢を正した。

「……俺は君に、お願いがあって来たんだ」
「―はい」

緊張が伝わってしまったかのように、福井くんは唇を引き結んで、じっと俺を見た。急かしはしないその態度のおかげで、俺はなんとか言うべきことを言えそうだった。

「福井、侑真くん」

俺は酸素を吸った。

「生徒会に入らないか。―福井くんが、庶務になってくれたら、嬉しい」
「―……は?」

ひえ、となった。

言い切った達成感を味わう暇もなく、福井くんの発した一音で俺は体を強張らせた。俺が予想していた返事は、はいかいいえの二択だったらしい。
は? という返事は予想外だった。肯定でも否定でもない、まして聞こえなかったから聞き返しているのか、ただ何を言ってるのだお前は、という意味なのかも分からない、たくさんの可能性を秘めた一音である。

直立不動の姿勢を保ちながら、膝が震えているのを感じる。恐る恐るまた顔を見ると、福井くんはなにやら呆然としているようだった。

「福井くん……?」
躊躇いつつ声をかける。やや切れ長の目が俺を見て、天井を見た。追って、両手が顔を覆う。

「木名瀬さん、だっけ。すっげー緊張してたから、告白だって勘違いしてた。勝手に乗り気になってたし……なんだこれ、俺、めちゃくちゃ自意識過剰? やべー、恥ずかしい」
「え……?」

驚いた。告白だと思われたことにもだが、すっげー緊張してた、という言葉に驚いた。

「お、俺が緊張してたの、分かるのか」
「は? いや、分かるでしょ。手とかぶるっぶる震えてるし。唇も声も、すこしだけど、震えてたし」

天井を仰いでいた彼は、こちらに顔を戻して不思議そうな表情をした。教室の時とかぶっ倒れそうだったすよね、と続けられる。本当のことだったので深く頷いた。


俺はあまり感情が表情にのらない、らしい。だから気を抜いたら泡をふきそうなほど緊張していても、それは人に伝わりにくいのだ、と神永先輩も言っていた。生徒会のメンバーが俺の緊張状態に気がついてくれるのは、さきほど福井くんが言ったように表情以外を注視すれば、尋常でない状態であることが伝わるからだ。






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