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何故か、福井くんは俺の手を引いて廊下を歩いた。
会長レベル、と副会長の白峰先輩が言っていたくらいに注目度が高いらしい彼が歩くと、進む先の道は息を飲んだように静まり、通りすぎた後の道はものすごくざわざわしていた。

ざわざわされている人と歩くのは生徒会役員で少し、ほんの少しだけ、慣れている。俺に向けられるのはついでのようなものだから、さっきまでの好奇なのかなんなのかわからない多量の視線攻撃より、よほどましだ。
福井くんは、顔を合わせた時の感じから勝手に、騒がれても興味無さげにやり過ごすのだろうなと思っていたのだが 、どうやら違うらしい。嫌がっているというか、居心地が悪そうというか、そんな感じに見えた。

彼に手を引かれて入ったのは、教室棟から少し離れて生徒のざわめきも少し遠くなる空き教室だった。
準備室、とだけかかれたプレートが掛かっていたが一体何の準備室だと言うのだろうか。机と椅子が二三ある程度で至極殺風景だ。


「ここなら、煩くないし、見られないですよ」

俺は、うん、とまた頷いた。ドアを閉めた福井くんはぶらぶらと教室の奥まで入っていって、窓際に凭れた。そして、少し首を傾けて、入り口から数歩入って立ち止まっている俺を見つめる。
話があるならどうぞ、という待機の構えらしかった。乾いた唇を舐める。顔の横にかかる髪を耳にかける。頬に触れた自分の指はとても冷たかった。緊張しすぎだと自嘲することも出来ない。

ともかく、これだけ離れていたら緊張状態の俺の声は彼に届かないだろう。二度も三度も繰り返す勇気はない。一度聞こえないと言われただけでも心が折れそうだと予測が出来たので、そろそろと歩を進めて、彼の少し前で立ち止まる。

声が届く距離を考えていたのだが、こうして腰かけた状態の福井くんと顔を合わせるとやや近すぎたような気がする。人には、パーソナルスペースというものがある。他人に踏み込まれると不快に感じる領域だ。
俺のパーソナルスペースは、親しい人にはとても狭いが他の人にはやや広い。住田は多分、狭い。そういうふうに個人差があって、この距離は、福井くんのパーソナルスペースに侵入している可能性がおおいにある。かといって今さら一歩引くのも感じが悪いように思う。

どうすべきか迷いながら福井くんの顔を見る。不快そうな顔はしていなかった。むしろ、興味深そうに俺を見ている。それはそれで、ひえ、となるが、とにかく話し出すのを待たれているのだから、このあまり仕事をしない口を働かせるべきだ。

「あの、福井くん―」

京、話すときは俯くな。途中で頭の中で蘇った、会長の声にはっとして、いつの間にか下を向いていた視線ごと顔をあげる。
見事に目が合って、心臓が太鼓のように鳴る。

「俺は、2年の、木名瀬京。生徒会で書記をしている」

事前に練習した名乗りが、練習したのとは違う口調で出てきた。丁寧さと礼儀を弁えた敬語はどこにいったのだろう。この初対面の相手に向けているとは思えぬ偉ぶって聞こえる口調はなんだろう。
なんだろうと言うか、普段の自分の口調だった。余計なところで地が出ている、と震える。






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