My heart in your hand. | ナノ


▼ 43

息を吸って、出来るだけ丁寧に、気持ちがそのまま声に乗るように祈る。

「……キヨ先輩が好きです。こんなふうに触りたいのは先輩だけ。あなたのことが、特別に好きです」
もうほとんど伝わっているだろうと思っていたが、俺が「好き」と口にした瞬間、キヨ先輩は明らかに動揺した。
言い切ったときには、綺麗な顔をくしゃりとゆがめていてまるで泣き出しそうに、ぎゅう、と一度強く目を瞑った。

「っ……もう一回、言って」
「―好きです。たくさん待たせたけど、間違いなく完全に、おんなじ意味の好き、です」

苦しくなるのも、触りたいと思うのも、自分の汚い感情すら受け入れようと思わせるのも。全部キヨ先輩で、キヨ先輩だけ。俺がこんな気持ちで好きだと言う相手はキヨ先輩でなければ嫌だ。これが愛情でないなら、俺には愛情などこの先存在しない。

「大事に、するから。俺に先輩の特別をください。それで、俺の特別も全部、キヨ先輩に貰ってほしい」
たったの二文字でも、想いを口に出すのがとても大変だということを初めて知った。好きだというたびに無意識下で抑圧されていたものが堰を失ったみたいに、溢れてくる気がした。
膝の上で俺の手を上から包み込んでいる先輩の手。その手の中でくるりと掌を返して、こちらからも指を絡めて力を込めてみる。

心音が大変なことになっているが、今大切なのは俺の心拍数なんかではなく目の前の、俺の好きな人。

まだ答えてくれない先輩の頬をもう一度撫でて答えを促す。すると、それをきっかけにしたみたいに勢いよく抱きつかれた。
驚いているうちに、今までになくきつく抱きすくめられる。痛いくらいだけれど、それが嬉しかった。

「、キヨ先輩―」
「ハル……。どうしよう、死にそう」
掠れているようで、たっぷり水分を含んでいるようでもある声だった。

「本当に好き。好きだよ、ハル。―……ハルの特別、貰ったらもう絶対に返したくなくなると思うけど、大丈夫?」
「多分とても悲しくなるから、返品はしないでください。俺は貰ったら返してあげる気なんて、一つもないので」
覚悟した方がいいと思います、と本音を冗談めかして伝える俺の声もかなり不安定で、なんで泣きそうになっているのか分からないけれど、ぐらぐらしている。
先輩は俺の肩に額を擦り寄せて、泣き声で笑う。

「やばい……、嫉妬してくれたのかなって期待してた時点でかなり嬉しくなってたのにそれ以上があるとは……」
嫉妬が嬉しい? 目から鱗だったが、好意が理由だということを考えるとなるほどそういうことも有り得る、のか?
なんとなくさっきの発言の意図も理解して、そんなものまで喜んでくれるのか、と思う。汚いと思った部分すらも掬い上げて大切そうにしてくれる。

彼への好意は、俺にとって大切なものだけれど、彼にとってもそうなのだと強く伝わってくる。
同じようにというよりは、もしかしたら俺以上に価値を見出してくれているように思う。だからこそ、キヨ先輩に差し出すものをちゃんと見付けられてよかったと心から感じた。



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