▼ 1
月曜日は、文化祭の振り替え休日だった。俺は岩見と学園外に買い物に来ている。
元々は次の週末辺りにと話していたのだが、平日である今日の方が人も少ないだろうとそういうことになったのだ。
「なー、どっちが似合う?」
「右」
服を買いたいという岩見に付き合って入った店はここで二つ目だ。色違いの同じ服を掲げて見せられる。暗い緑のと薄い青色で、迷わず青の方を選ぶと面白そうに笑われた。
「エスに聞いたら、大体明るい色の方を言うよな」
「そうか? 明るさで判断してる訳じゃないけど―それなら、お前には明るい色が似合うってことだろ」
「うふふ、照れちゃう」
岩見ははにかみながら緑の方を元の場所に戻した。どちらでもいいという段階で俺に聞いているからか、岩見が俺の選んだものと逆のものを買うことはない。俺は岩見の持つ服に目をやった。
「他にも買うのか」
「うん、後はカーディガンが欲しいんだよねー。エスは何も買わなくていいの? 」
「ん、なんか上の服買おうかな」
去年はちょうど良かった長袖の服のいくつかが微妙にサイズアウトしているから、薄手のものがあまりないことを思い出して答える。
「あ、まじで? ならさ、俺が選んでもいい?」
「別にいいけど、なんで」
「だってエス、自分で選ぶと確実にモノトーンじゃん。ビビッド系着てほしい」
反駁しようとしたが、思い返せば確かにその通りだった。とはいえ何が悪いのだと思わなくもない。不服を顔に出す俺に「あと、何でも似合いそうだから単純に選ぶの楽しい」と笑って付け足す。
「パーカーとかスウェットとかラフな感じのばっかり着てるけど、こういうのも絶対似合うよ?」
指差された、胸ポケットやボタンに装飾のある白シャツにテーラードジャケットと細身のパンツを合わせたマネキンを見上げて、「ラフじゃないのもある」と言えばすかさず「陽慈くんから貰ったやつでしょ?」と返される。
確かに俺が持っている服で多少なりとも洒落た雰囲気のものは陽慈がもう着ないからと寄越してきたものだし、楽で着こなしがどうとか考える必要がないからよく着るのは岩見が言うとおりのものだった。今日の格好だって見るからにラフだから反論の余地はなかった。
「でも、エスが着ると適当に選んでいるとは思えないくらいお洒落感が出るからなー。あえてのシンプル路線に見えるもん。そういうとこずるいよなー」
岩見はカシャカシャと音を立ててラックに掛かった上着を右から順番に見ていく。自分の服装がどう見えるかなど考えたこともなかった。腑に落ちないまま「ふうん」と雑な相槌を打つ。
「そう見えんなら得だな」
「他人事みたいな言い方する。あ、これどう?」
とん、と胸に宛がわれた服を見下ろす。深い赤色のニットだ。襟ぐりが広い。
「これ、鎖骨見えるんじゃないか」
「え、うん。いいじゃん、見えても」
「やだよ。寒い」
「重ね着すればいいよ。あー、でも暗い色よりやっぱりぱきっとした色着てみてほしいなぁ。―あ、これ、いいね! 合わせて合わせて」
こうやってたまに俺の服を選ぶとき、岩見はいつもうきうきしている。自分とは違う系統の服を検討することが楽しいらしい。
センスもいいから選んでくれるときは軽く希望を言うくらいであとは任せきっている。
岩見の主観で「格好いい、似合う」と選ばれた数着から買うものを決める。岩見は緩いシルエットのカーディガンで即決だった。
prev / next
157/210