My heart in your hand. | ナノ


▼ 27

文化祭二日目。なんとなく予想していたとおりに、一般公開日の今日は来場時間になると共に校内に人が押し寄せ、昨日よりますます賑やかになった。
浴衣姿に慣れ、宣伝係も二日目だから少しは気楽かと思っていたが、むしろ昨日の方が良かったような気がする。今日はどこもかしこも人だらけだし、制服姿の女子に珍獣でも発見したかのごとく悲鳴を上げられるしで、まだ始まって間もないのに散々だ。

昨日と同じように川森と二人で宣伝しながら校内をぐるりと一巡して、ようやく教室に戻ってこられた。
衝立の後ろでやっと人心地ついた気分で溜息を落とした俺を川森がにやにやと覗き込んできた。少し鬱陶しくて顔をしかめる。
「なんだよ」
「いやぁ、江角ってやっぱモテるんだなあと思って」
「なんでそうなる」
なんでって、と川森は妙な笑いを引っ込めてきょとんとした。

「いやだって、ほら、一般客の女の子たちにすごい騒がれてたじゃん。江角途中からピリついた顔してたから話しかけてはこなかったけど、そうじゃなかったら逆ナンとかされてたんじゃね?」
「……そんな顔してたか?」
ぱっと自分の頬に手を当てる。確かに、人が多いわ賑やかを通り越してうるさいわでうんざりしていたが。
クラスの宣伝をしている奴が不機嫌顔を晒していいわけがない。川森にも悪かったなと思って、ごめん、と呟くと相手は慌てたように手を振った。

「いや今の話で気にしてほしいのそこじゃないから! てか、大丈夫だって。江角は普通にしててもとっつきにくそうだから多少ピリついたくらいじゃ大して変わらんし」
全くフォローになっていない。反論したかったが、気にするなと言ってくれているのは分かるので黙る。
「そのことじゃなくて、俺は女の子たちの反応について言いたいんだよ。振り返ってまで見られてたの、気付いてた? すごかったぜ」
「―悲鳴上げられたことしか覚えてねえ」
「え、地味にショック受けてたりする? あれはきゃーイケメンが浴衣着てるー!って悲鳴だろ」
ショックではないが、不快感はあった。川森が言うような意味かどうかなんて実際のところは知れたものではないし、そうだったとしても、だからなんだと思う。
「嬉しくない」
「ええ、なんで! 江角って女はあんまり好きじゃない人?」

嬉しくないとそういうことになるのか? よく分からない。
首を傾げてちょっと考えていたら、何か一仕事を終えた様子の委員長がひょこっと顔を見せた。

「お疲れ、江角くん川森くん」
「いいんちょ、お疲れー! ねー、俺ら今日この後はどんな感じで動いたらいいん?」
川森の意識が委員長の方に向く。俺も先程の話は放っておくことにして、座ったまま委員長を見上げた。

「そうそう、その話だ。教室前で呼び込みしてほしいなって思ってるけど、それは一人でもいいから二人で時間決めて交代制にしたらどうかな。そしたら二人共ちゃんと文化祭見て回れるだろ? 昨日はしっかり時間確保できなかったし」
「金井とか千山の担当って後半だっけ」
川森の質問に委員長は、手の中の紙を見た。それぞれの割り振りがそこに書かれているのだろう。
「うん、そうだな。二人とも十三時から仕事してもらうことになってる」
「なら俺も担当は午後がいいかな。江角はどう?」
「俺は午後に回りたい」
「お、ちょうど良かった。じゃあ今はこのまま江角が呼び込みってことでいい?」

川森の行動は早く、俺が頷くやいなや「じゃ、千山たちと連絡とる!」と宣言してさっさと教室から出て行った。
目が合うと、委員長はぐっと両手で拳を作った。
「じゃあ、江角くん頼んだよ。客の入りは上々だ! 多分三年生のクラスにも張り合えている!」
「そうか」

クラスメイトたちが頑張った成果が出ているなら良かったと思う。上機嫌の彼と別れて、俺は教室の前に立つことにした。



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