ダイヤモンドをジャムにして | ナノ



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一夜明けて、今日は入学式。新品の制服は固くて、何とも着心地が悪い。教えてもらってなんとかきれいに結べたネクタイも息が詰まって苦しい。
一緒に朝食をとった香くんたちとは道の途中で別れた。在校生は一旦教室に集合だけれど、新入生はそのまま式が行われる講堂に行かなければならないからだ。張り出されていたクラスを確認してから、おれと同じぴかぴかの制服を着た人たちに着いていって講堂に向かう。入り口より手前に長机を並べたところがあって、そこで何か受付のようなことをしているらしい。ずらりと生徒が並んでいる。

おれはほてほてと歩いていってその列の最後尾に並んだ。今日もいい天気。ふわぁ、とあくびをして襟元を触る。首が詰まってるのほんと無理なんだよね。緩くて大きい服が好き。だからカーディガンはオーバーサイズなんだけど、制服はしっかり採寸されるからぴったりだ。やだー。
ていうかおれまだ成長期なんですけど? 制服窮屈になっちゃったらどうすんの? むーと下唇を突きだして考え事をしながら、やっぱり耐えかねてせっかくきっちり締めていたネクタイを引っ張って緩めてしまう。あー、息できる。さっきまで止まってたかも。

列は結構さくさくと進んでいて、もうすぐおれの番だ。どうやら胸につけるコサージュと学校案内のパンフレットをここで渡しているらしい。てきぱきと働いているのは賢そうな顔をした先輩たち。前の人がどいたので一歩進んだらもう長机の前だった。

「入学おめでとう」
「ありがとうございまぁす」
目の前の人に爽やかに祝福されて返事をしたら、「これつけさせてね」と更に隣からお花を持った手が伸びてきた。ささっとフラワーホールにコサージュがセットされたのを見下ろす。
ピンクと白の花。かわいい。男子校なのにマメだ。私立だから? 関係ないか。顔を上げたら同じ人に冊子を手渡されて、講堂に入ったら自分のクラスの張り紙があるところに座ってと指示を受けた。頷いて、受付からふらっと離れる。

講堂の入口のところには左右にこれまた上級生が立っていた。なんの役割であそこにいるのか分からないけど、入ってくる人をただ見てるのってつまんなそう。俺なら三分で飽きちゃうだろうな。
そんなことを考えたらあくびがでて、入口を通るとき両側からじっと見られた。そんな間抜け面だったかな、と口を閉じるのと同時にすれ違いざまに「ネクタイ」と右側の人が言葉を発した。

「ん?」
気のせいかとも思ったがとりあえず足をとめて、なに? という顔でそちらを見ると、襟のところに妙に目立つシルバーの飾りがついたその生徒はとんとんと自分のネクタイを叩いて、
「ちょっと緩めすぎ。式典のときはちゃんと締めて」と言った。
……なるほど! ただ立ってるだけかと思ったら服装のチェックをしていたのか。生徒指導みたいなことを生徒がやるんだなあ。ぱちぱち、と瞬きをしてから最初よりは緩めにだけど、ちゃんとネクタイを締めなおしてみせた。これでいい? と視線で尋ねるとその人もそうだそれでいいと視線で答えた。気がした。

ちゃんと服装を正したいい子のおれはきょろきょろと講堂の中を見回して、前の方に向かっていく。椅子は折り畳みとかじゃなくてなんか映画館みたいな奴だった。お尻が痛くならなそうでいいね。
同じクラスの人が集まっているらしい辺りに適当に座って大人しく式が始まるのを待つことにする。



ちょっと予想してたけれど、式をほぼ眠って過ごしてしまった。大きな拍手の音に驚いて目を覚ましたらもう式自体は終わっていて、拍手されながら退場していく段階だった。最初の方にあった校長の挨拶の冒頭しか聞いてなかった。
椅子が固くないとこういうことになるよね。みんなねてたんじゃない?目を擦っていたら担任っぽい若めの男の人がクラスの列の前にきて二列に並んだまま退場するよう指示をだしてきた。Bクラスの人たちが皆立ち上がったので、おれも腰を上げる。


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