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もう一つ授業を終えるとお昼の時間だ。 優世くんと食堂に行ってご飯を食べていたら、副会長がやって来て申し訳なさそうに優世くんに声をかけた。敷島くん、と呼び掛けられただけで優世くんは何の用か分かったらしく、さっさと残り少なかった食事を食べ終え席を立つ。
「先に出る。またあとで」 「ん、うん」 口の中のものをあわてて飲み込んで頷くと、優世くんは「ゆっくり食べろ」と重々しく告げて去っていった。副会長は来たときと同じ眉を下げた表情のまま、おれに会釈をしてそのあとを追いかけていく。腰の低い人なのだろうか。 温くなるのを待っていたスープを飲んで、オムライスの残りを溢さないように慎重に口に運ぶ。ケチャップの味が慣れたものと違うからか、舌に残る。
元々食べるのは遅いけれど、ゆっくりと言われたので、いつもよりもっとよく噛んで食べた。ちょっと顎が疲れた。 水を飲もうとしたらもうコップが空っぽだったから、とろとろと席を立って取りに行く。ファミリーレストランのドリンクバーにあるみたいなウォーターサーバーから水を注ごうとして、隣に温かい緑茶のサーバーもあることに気が付いた。食後の温かいお茶。飲みたい。 コップをプラスチック製らしき軽い湯呑みに交換してとぽとぽ注ぐ。
「ぎゃ。熱ぅ」 滴が跳ねて手にかかった。友だちが一緒なら「ねえ跳ねたよ!? やけどした!」って騒ぐけれど、ぼっちなので控えておく。一人で騒いだら関わってはいけない人感が出るので。 席に戻って、息を吹いて冷ましながら少しずつ緑茶を啜る。美味しい。ほっこり。
「ねえ、ちょっといいかな」 「え?」 いつの間にか、すぐ隣に人が立っていた。不意を打たれて跳ねた心臓をなだめながら、見上げる。 つい昨日覚えた顔。さっきも見た顔。生徒会の子である。 「なに?」 「うん、ちょっと。話したいから、一緒に部屋行こうか」 にこ、と笑いかけられる。おれは飲みかけのお茶と相手の顔を交互に見た。飲み終わるまで待って、と言っていいのだろうか。知り合いになら間違いなく言うけれど、彼は名前も知らない人だ。 あれ、優世くんこの子の名前言ってたっけ? おれが覚えてないだけかも。ちょっと悩んでから、ぎこちなく席を立った。その間ずっと変わらぬ笑顔で見守られているので、お茶を飲むまで待ってくれるとしてもこの視線は逸れない気がするし。
「なら、お皿とか、片付けてくる」 「わかった。先行ってるから、早く来てね」 あ、はい。
満足げにうなずいてさっさと踵を返した背中をちょっと見送ってからいそいでトレイを返却口まで運んだ。話したいって、なんの話かな。ずっと何か言いたげではあった。優世くん絡みな気がしたからなんとなく気付かないふりをしていたけれど、真正面から来られては向き合うしかない。 あんな話を優世くんとしたばかりだからちょっと構えてしまう。『馴れ馴れしくするな』、とか言われたらどうしよう? おれ、たぶんあんまり評判良くないよね。優世くんは自分の方に問題があるみたいに気にしていたけれど、おれもなかなかだと思う。
よくヒソヒソちらちらってされるから、何か噂されているのは知っている。内容は分からないし気にしても仕方がないことだけれど、それが原因で優世くんに累が及ぶのは嫌だ。 ……なるほど、優世くんもこういう気持ちになったのかもしれないな。おれは優世くんが好きだからこう思うわけで、つまり優世くんもおれのことが好き。なるほどね。
むむ、と深刻ムードだったのに呼び出された部屋に着いてドアを引くときにはにっこにこになっていた。我ながら現金なやつだ。
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