ダイヤモンドをジャムにして | ナノ



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バーベキューのあとはレクリエーションだった。スタンプラリーみたいな、のんびりしたやつ。余市くんたちの後ろについて歩いて、気まずさは感じないくらいに会話をする。
自然のなかでの散策とグループ内の交流がメインなんだろうなという気でいたけれど、話を聞くに、どうやら数ヵ所のポイントを担当しているのが生徒会の役員たちで、どうにかしてその全員のところに回って言葉を交わしたいというのが皆のやる気の源らしい。一緒に行動している子の中の一人は生徒会長のファンらしく、ぜったいに生徒会長の手ずからスタンプをもらいたいと意気込んでいた。その勢いもあっておれたちのグループは時間内に生徒会役員が担当しているポイントは全部回りきれた。

生徒会長は精かんさと男子高校生っぽさをミックスして男前に仕上げましたという感じで、副会長はきらきらふわふわしていて異国の王子様みたい。さっき優世くんを呼びに来た人は同じ一年生らしかった。相手もおれに気が付いたのか話しかけられそうな雰囲気だったので、みんなの後ろに立って素知らぬふりをすることで事なきを得た。なにか聞かれたら面倒だし。
それはともかく、生徒会の人たちはみんなして女の子にモテるだろうなあというお顔立ちだった。成績が良くてもお顔が万人受けするタイプではないと役員にはなれなかったりしたら闇を感じる。世知辛い。


レクリエーションが終わった後はホテルに戻って解散となった。夕食は決められた時間内ならいつ摂ってもいいらしい。いっぱい日差しを浴びて動いたから、とりあえず少し眠りたい。おれは余市くんたちと別れてふらふらと割り当てられた部屋に向かった。
二人部屋の相手は事前に言っていたとおり優世くんになっている。担任は「朝霧に友だちが出来て良かった」とやたら喜んでいて、おれ、友だちいないと思われていたんだな、とそのとき初めて知った。

ぺそぺそと廊下を歩いて、さっき荷物を置きに一度だけ入った部屋に辿り着く。
ベッドが二つ、鏡台とテレビ、ユニットバス。普通だけれど綺麗な部屋だ。おれはちょっと悩んでから窓に近い方のベッドを選んで、荷物をそちら側にずりずりと移動させた。着ていた学校指定のジャージをぺいぺいと脱いでいく。夕食に行くとしても私服でいいし、綺麗なベッドに外を歩き回ったり地べたに座ったりした服で乗り上げるのはよくないかと思ったのだ。たまにはおれだって配慮する。
中に着ていたTシャツはそのままに、下だけスウェット生地の部屋着に替えて、ようやくベッドにダイブする。もふぁと危なげなく受け止められた。はっとして寝返りをうち大の字になる。

「……、良い!」
このベッド、家のより寮のより寝心地がいい。持って帰りたい。体から力が抜けてふーと長い息が出た。お疲れである。横向きになったら、ジャージを脱いだときに枕元においたスマホがちかちかと通知を知らせて光っているのが見えた。手にとってみれば、メッセージアプリの未読が溜まっているらしい。香くんたちとのグループだ。
トーク画面を開いて、未読を遡る。授業時間の、手持ち無沙汰な感じがよく出ているしりとりがちょっと続いて、それをぶったぎるようにあっくんが『すい、楽しめてるか?』と送っていた。いや、よく見ると一個前の慎くんの言葉がす、で終わってるから、ちゃんとしりとりの形式だ。送信時間は、少し前。そのあとは誰も続けていなくて、おれの返事待ちだなってすぐわかった。
ちょっと考えてからむっくり起き上がって、窓に近づきカーテンを開けてみる。森だった。いや、違うかも。でも森に見えるいい感じの景色。それを背景に、カメラを起動してめちゃくちゃ可愛いフィルターで自撮りをした。

ネコかなにかの耳とひげが生え、黒目もやたらおおきくくりっくりになっているその画像をおれは流れるようにトーク画面に貼り付けた。
「かわいいおれをみたまえ」と一言つける。ごめん、正直「か」で始まる返事が思い付かなかったんだよね。
すぐに既読がついた。
『かわいい』
『可愛い可愛い』
『わーーかわいー』
『さては囲みだなお前ら』
すぐに吹き出しが並ぶ。上からあっくん、越智くん、慎くんだ。当然最後が香くん。へはは、と笑いながらベッドに戻って寝転がる。しりとりどっか行っちゃった。

様子を聞いてくるみんなに食べる専門でBBQをしたこととか、初めて生徒会の人を見たこととかを伝えておく。BBQは香くんたちのときもあのスタイルだったらしい。
ぽんぽんと会話が進む画面を眺めているうちにどんどん瞼を開けておくのが大変になってきて、しばらく頑張っていたけれどついには上下の瞼がぴったりくっついてしまった。あー、寝ちゃうなあと思いながらおれは多分そのまま眠りに落ちていった。



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