ダイヤモンドをジャムにして | ナノ



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宿舎は、広くてきれいだった。慎くんたちが言っていたとおり、周りは青々とした木々に囲まれていて雰囲気がいい。水の匂いがするから、近くに川でもあるのだろう。
自分の荷物を部屋に運んだり館内の説明を聞いたりしているうちに、すっかり日は高くなった。お昼はバーベキューをするらしい。指示されるままに移動しながら、調理の係なんて決めたかなと不思議に思っていたけれど、なんのことはない、準備から何からをするのは宿舎のスタッフさんと先生たちだった。
おれの知っているバーベキューと違う。


「せんせー」
半袖を肩までまくりあげて鉄板に野菜を並べている先生のところにつつつ、と近付く。Cクラスの担任で、体育の先生だ。大柄で筋肉隆々でかっこいいし、気さくだから好き。というか、知っている先生はだいたい好きだ。
ただ、うちのクラスの担任だけは、クラスみんな仲が良いのが理想らしくて、お互いに出来るだけ不干渉でいたいおれとクラスメイトを関わらせようとする辺りがちょっと苦手だ。関わるにしたって自分たちの意志でやるから放っておいて、って思っちゃう。クラスメイトを全員友だちって呼ばせて、休み時間に本を読んでいたい子を無理やりグラウンドに引っ張り出す小学校の先生みたい。

「おお、朝霧。ちゃんと食ってるか? 肉を食いなさいね」
担任について考察していたおれは、は、と顔を上げてうんうんうなずいた。お肉は嫌いじゃないけれど、たくさん食べると気分が悪くなるからほどほどに食べてます。

「でもおれ、野菜の方が好き」
「おっ、そうか。よし、何が食べたい? たくさんとってやろう」
「そこらへんの、焦げそうだからもらいまーす」
大きな鉄板の隅の方を指す。先生はおっと、と慌てながらトングで引き上げた野菜を、おれが差し出す紙皿の上にのせていく。焼き加減がちょうどいいやつも次々にのせられた。
「さすがに多いって」と言えば、いい笑顔が返される。

「たくさん食って大きくなりなさい。お前はまだひょろっこいからなあ」
「成長期なんですぅ」
「香の方はわりと育ってるだろ?」
「おれも二年生になればもっと育ってるよ」
おれはしたり顔で言って、熱々の玉ねぎを頬張った。ただ焼くだけで美味しいのすごくない?

「兄貴くらいは伸びるといいよな」
身長のことで生徒をからかおうとするのはどうかと思います。おれは言うほど小さくないでしょう。

「大丈夫。お父さんもお母さんも小さくないし。おれは香くんくらいとは言わず、先生並みにたくましくなるつもりだから期待しておくといいよ」
ふふん、と笑ってみせる。
「その顔で俺くらいだと不気味じゃないか?」
真剣な顔で失礼なことを言われた。おれはきゅっと握った拳を軽く先生のお腹にぶつけて反撃した。すごい筋肉に阻まれて、たぶんダメージは一つもないだろう。ちょっと当たっただけで分かる厚みだ。たしかにここまでの筋肉は要らないな。
「じゃあね、先生」
「おお。転ぶなよ」
「ころびませーん」
手を振って先生の傍から離れる。

ここは大きな広場で、丸太で作ったテーブルと椅子がたくさんある。予想通りすぐそばにきれいな川も流れていて、みんな好きな場所で食事をしている。もう食べ終わったのか、川で遊んでいる人達も見えた。いいなあ、香くんたちと来てたらおれも遊んだと思う。一人じゃ、楽しくない。
昼食と自由時間を兼ねているから、まだまだたっぷり余裕はあるし、上流の方までのんびり歩いて行ってご飯を食べたらお昼寝でもしよう。


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