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「#切ない」のBL小説を読む
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関係性が変わるより前から度々訪れていた部屋は、今では空気が馴染んですっかり落ち着く空間になっている。キヨ先輩がいて、彼の匂いが満ちている分、自分の部屋より心地がいいかもしれない。本だらけなところも似ている。
午睡から目覚めた俺は、まだ眠気の残る頭を持て余しながら枕に頬を擦り付けた。一緒に寝るということを、眠気に侵されていない頭で考えたら、そんな状況では目が冴えてしまって眠れそうにないという気がする。けれど、眠いなと思ったところでちょうどよく昼寝に誘われると、毎度頷いてしまうのだ。

先輩の体温が隣から伝わってくる距離で眠るのはとても落ち着く。鈍くなった思考ではその誘惑が勝つ。それに、横になったままとりとめのない会話をぽつぽつと交わすのも気に入っている。
そんな風だから、キヨ先輩は恐らく、俺が一緒に眠ることに何の動揺もないと思っているだろう。本当は、毎度そうやって眠った後は目が覚めたときに形容しがたい照れが湧いてくる。まだ触れられることに緊張を伴う相手と密着しているのだから、当然だと思う。


今も俺は例に漏れず据わりの悪い気分になっていた。それを持て余しつつ、後ろから腹に回されている腕をそうっと触る。力の抜けた腕の重さは、彼が眠っている証拠だ。ちょっと持ち上げて寝返りを打つと、先輩の首元が目の前に見えた。
制服はもちろんのこと、私服でも彼は割りとかっちりした格好をするから、襟ぐりが広いシャツは少し新鮮で、鎖骨の辺りをついじっと見てしまう。普段隠されているものが無防備に晒されている状態というのは、なんというか見ていてそわそわする。

無駄にあー、と唸りそうになって、まだ眠っている先輩を起こしたくなかったから口を引き結んで声を呑み込む代わりに胸元に額をくっつけた。すると、ちょっと身じろいだ彼の腕に力がこもって引き寄せられる。軽く触れていたのがより密着した形になって、キヨ先輩の体温と匂いをさっきまでより強く感じた。抱え込まれているみたいな体勢で、温かくて、良い匂いのする腕の中にいる。
それを実感して、一瞬強張ってしまった体から力を抜いた。目を閉じて胸に頬を寄せると、静かな音が聞こえた。トク、トク、と鳴る心音。きゅ、と胸を掴まれたような心地がした。息をつく。
好きだなぁ、と思う。思っただけで、腹の中がむず痒くなるようなもの慣れなさはさすがにもう無くなったけれど、それでも、そんなことを自分が思うようになるなんて、と以前の自分と比べての感慨のようなものはある。ずっと当てはまる名前をつけられずにいた感情は、自覚して受け入れてから、更に大きくなっていっているようで、しかも、些細なことで育つのだ。多分、今もまた育ったのだと思う。


俺もキヨ先輩の腰に片腕を回した。息苦しさを感じさせないようにそっと、それでも簡単には離れないくらいの強さで抱き締める。横たわった状態は、座っているときより密に触れ合うから良い。
温かさに満ち足りた気分で頬を更にすり寄せたら、すぐそばから聞こえる鼓動がにわかに早くなった気がした。訝しんで顔を上げる。ついさっきまで確かに閉ざされていた先輩の目が開いていた。