1

授業の合間の休憩時間。通知が来ていることに気が付いてスマホを触っていると、金井と話していた川森がくるりとこちらを振り返った。

「なあなあ、江角ー」
「あ?」
「昨日、丸川に告白されたんだろ?」
「は? 誰それ」
突然告げられた名前には全く聞き覚えがなかった。眉を寄せた俺に、川森はもどかしそうにする。

「名前分かんなくても告白はされただろ?」
「……、あー。うん」

なぜ知っているのだろうか。不思議だったが、問うてみるほど興味もなかったので、だからなに、と話を促すと、金井が頬杖をついたままにやりと笑う。

「お前に告白したやつ、丸川って言って、学年では可愛いってけっこう有名」
「へえ―」

男に可愛いとかきもいな、と何も考えずに言おうとしたが、そういえば俺もキヨ先輩のことを可愛いと思うのだから人にとやかく言えないのかもしれないと気が付いたので、口には出さず、価値観は人それぞれだなと思うに留める。

「確かに丸川可愛いよなあ。女の子みたいだよな」
「仕草とかわざと女っぽくしてる感じはある。自分のこと可愛いって思ってるタイプだよな」

その口振りからすると、金井自身は可愛いとは思っていないらしい。
話題になっている丸川という男を思い出そうとしたが無理だった。背が低かったことしか思い出せない。ああいうことを言ってくる男は基本小柄だから何も覚えていないのと同義だ。

「えーそうか?」
「そうだろ」
「そっかぁ、ってまあ、それは置いといて! 今は江角の話!」
「だからなんだって。聞いてやってるんだからさっさと言え」

お前が勝手に別の話をしていたんだろうと軽く睨む。川森は唇を尖らせて「辛辣……」と呟いてから気を取り直した様子でもう一度口を開いた。

「江角、好きな人がいるから、って丸川の告白断ったんだって?」
「―は?」
目を瞬く。俺の反応をどうとったのか、川森は落胆した表情を見せる。

「ガセネタ? 今までそんなこと言わなかったのに! ってすげえ噂になってるみたいだけど」
「―なんで」

口元に手を宛がう。確かに俺は昨日、付き合ってほしいと言われて、好きな人がいるからと断った。いつも必ずと言っていいほど断る理由を求められたから、とても明確で納得しやすい理由だろうと思って。
けれど、その程度のことが、まさか噂になるとは思わなかったのだ。軽率なことを言わなければ良かった。

「皆、お前の好きな人ってのに興味津々だからね。俺も興味あるぜ!」
「なんでそんなことに興味持つんだよ」
謎だ。皆というのが誰を指すのかは分からないが、少なくとも俺は川森たちに想い人がいたとしてもそれが誰かなんて気にしない。話したこともない相手なら尚更だ。

「だって江角が人を好きになるとか、まじで想像できねえじゃん!」
「なんか失礼なことを言われた気がするんだが」

俺はどういう風に見られているのだろうか。




back