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江角晴貴くんが好きだ。

顔があまりにも俺の好みである。薄い唇も、やや鋭角の眉も、左右対称の切れ長の目も、高過ぎず低すぎずの鼻も。全てが匠の技が如く整っていて、更にはそれらのパーツの配置もバランスも最高。
冷たそうな雰囲気も、無表情がやや不遜に見えるところも理想的と思う。江角くんになら冷たく罵られることすら幸せという気さえする。

あと、笑い方。イメージだと見下したみたいに鼻で笑いそうなのに、意外にちゃんと笑うというか、雰囲気が柔くなるし、ちょっと幼くてやんちゃそうで、こう言ってはなんだが可愛らしい顔になる。最高。


「はあ、今日も江角くんはイケメンだった……」
「また言ってるし」
「江角くんを見るたびに言うよ、俺は」
「それを聞かされる俺の身にもなってくれ」
「甘んじて受け入れろ。お前なんか毎日江角くんを眺めて過ごせる最強のポジションを持っているんだから」
パスタをくるくるとフォークに巻き付けながら呆れた顔をする友人に、びしりと指をつきつける。この男、なんと江角くんと同室なのだ。歯茎から血が出るほど歯ぎしりしたくなるくらい羨ましい。比喩だ。

「今日の江角くん、ちょっと眠そうで眉間に皺寄ってたのが超よかった」
「すれ違っただけなのに眠そうとかよく分かるね……」
「当然。あ、そうだ北川、お前に聞きたいことがあるんだった」
「なに?」
「江角くんはボクサー派? トランクス派?」

友人のドン引いた顔を見るのは、悲しいかな、初めてではない。しかし俺は江角くんの使っている歯ブラシの硬さから風呂で体を洗う際のその順番まで知りたい。江角くんは俺にとって至高のアイドルだし、推しメンの生態を尽く網羅したいタイプのオタクなのだ、俺は。
もちろん良識を持ち合わせているのでストーカー行為に走る気はない。質問するくらい許せ。毎回律儀に引いた顔をしないでほしい。

「あまりにも変態……」
「やめろ! 俺の江角くんへの愛をそんな汚れたものに分類するな! 俺は江角くんに恋愛感情は抱いてない!」
「そういう問題じゃないし……」
北川の目は最終的にかわいそうなものを見る目になった。やめろ。

「で? どっちなんだ?」
「勝手にそういうことを言うと、同室者としての信頼を失いそうだから嫌だ」
その発言、裏を返せばお前は江角くんの下着事情を知っているということだからな。下着の柄までも知っているんだろう!? 羨ましい!

「ちくしょう、なんて奴だ……江角くんの下着事情を知り尽くしやがって―」
「語弊があるにもほどがあるよ、まじでやめろ」
「せめて、今日の江角くんが何色のパンツを穿いているのか知りたい―」

俺が頭を抱えて呻いているのに、北川はのんきな声で「あ、やっほー」などと誰かに声をかけている。

「黒だと思うけど」
ちゃんと相手してくれよ! と叫ぼうとしたそのとき、あまり耳慣れない、けれどキラキラを纏っていそうな声が斜め上からした。え、と固まってぎこちなく視線を向けた先に。


「は、はわわわ、江角きゅん……!!」

俺の至高のアイドル様が当然のようにそこに立っていて、その後ろには江角くんと仲がよろしいらしい元風紀委員長までいた。
どきーんっと俺の心臓が跳ね上がる。


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