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「どうした? 難しい顔になってる」

考えていたら、また眉間に皺が寄っていたらしい。そこに触った指がついでのように額まですりすりと撫でていく。自分を省みて沸き上がった居た堪れなさは、その優しい手つきですぐに解けていってしまう。
先輩が嬉しそうだから、まあいいかという単純思考。


「時間かけて馴らして懐かせたんだから、責任もって大事にしてくださいね」
先輩の手を捕まえる。猫、に引っかけて言った冗談に、先輩は目を丸くしてからぽすんと俺の肩に顔を埋めた。

「……ずっと大事にするから、ハルも寛げる場所の上位には、俺の傍をランクインしておいてくれる?」
「喜んで」

さらさらした髪を梳いて、顔を上げてと促す。俺と目を合わせた先輩の、困ったような照れた表情に笑って、出来るだけ優しく丁寧にキスをしてみた。相変わらず柔らかい先輩の唇の感触。
キスなんか、なんのためにするのだろうと思っていたけれど、ハグと一緒で、触れてみれば理解できた気がする。皮膚よりも薄い部分同士の触れ合いはとても親密で、キヨ先輩をすごく近くに感じるのだ。

ふとどちらからともなく目を開けると、キヨ先輩は力が抜けたみたいに俺の隣に倒れた。

「先輩?」
「いっぱいいっぱいで胸が苦しい……」

呟かれた言葉に笑ってしまう。長い腕が伸びてきて俺を閉じ込めようとするみたいにぎゅうっと抱え込まれる。顕わになった額に唇が触れて、それから彼は満足そうに俺を抱き寄せたまま息をついた。
目の前に先輩の胸があって、頬を寄せると心音が聞こえた。少し速い。そのまましばらくじっとしていると、触れ合った体が温かくて、話しているうちに薄れていたはずの眠気が戻って、うとうとしてきた。

「このまま昼寝する? ハル」
「ん―」
鼓動に耳を傾けながら、先輩の提案に逡巡する。
眠っていいよと促すように優しい手つきで背中を撫でられる。一緒にいられる時間がもったいないような気がするのに、そんな風にされると俺は簡単に眠気に負けてしまいそうになる。

「キヨ先輩は?」
「俺も寝る。だから寝ていいよ、ハル。」

一緒に眠るなら、いいかな。それはすごく温かそうだし、なんだかよく眠れそうだ。自分が感じている心地よさを先輩にも感じてもらえるように、俺も先輩の背に腕を回してみた。

「……おやすみなさい、キヨ先輩」
「おやすみ、ハル」

眠りにつく前の何気ない挨拶を、彼と交わせることを幸せだと思う。本当に眠りに落ちる少し前に、キヨ先輩がまた優しく俺の額にキスをしたような、気がした。



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