「真鶸もやんだろ?野球」
芝生の甲板で、ルフィに野球に誘われた。
えっと?
ピッチャー→ルフィ
バッター→チョッパー
キャッチャー→フランキー
…この状態がベストなんじゃ?
「ポジションなくない?」
「監督があるぞ、監督。スゲェだろ、監督」
「何、采配するのよ?」
ルフィはうーん、と首を捻り。
そこで私は丁重に、お誘いをご辞退申しあげた。
「でも、フランキーがキャッチャーなんだ。ウソップは?」
「新しい発明するって、支部で頭捻ってたぜ」
「へぇ。覗いてみようかな?」
階段を登る私を、ルフィたちのはしゃぎ声が追いかけてきた。
「魔球投げるぞー」
《Good-bye,
innocent afternoon》
「ウソップ、いいアイデア浮かんだー?」
「真鶸」
陽のあたるウソップ工場支部。
あぐらに、腕くみ姿のウソップは。
閉じていた目を片方だけ開いて、ニッと笑った。
「浮かんで浮かんでしょうがないぜ。この恐るべき才能、この天才ウソップ様にかかれば…」
「へー、いくつか聞かせてよ」
私が無邪気を装い、そう尋ねると。
ウソップはあからさまに視線を外し、妙な汗を流しながら、
「…ま、まだまだ人に教える段階には到ってねェ」
「ほほー…」
私はわざとらしく半目で、ウソップを見てから。
支部の隅に腰を下ろした。
「あれ?ブーメラン」
ウソップの前に置いてある、木製のブーメランを手に取る。
「おれは今、それを基に、消費しない武器を考案中なんだ」
「消費しない?」
ウソップは、私の手からブーメランを取り上げ。
「火薬星、卵星、タバスコ星と、おれ様の武器は多彩で役にたつものばかりだ、が」
そこでウソップはブーメランを投げた。
「持てる数に限りがあるし。作んのにも時間かかるだろ」
芝生の甲板の半ばまで進んだブーメランは。
大きく弧を描いて、戻ってくる。
ウソップは、それを片手でキャッチすると、
「で、何度も使える武器があれば、便利だと考えたわけだ」
「なるほど」
私は、ウソップの手からブーメランを取り。
見よう見まねで投げる。
さっきより短い距離で戻ったブーメランは、帰着地点がずれていて。
スルリと、ウソップの手に収まった。
「小さいブーメランをパチンコで飛ばすとか、そういうの?」
ブーメランを再び投げるウソップに尋ねる。
「何度も使えるってトコを参考にしてるだけで、これを実際使う予定はねェ」
「…難しそう」
奪いあうようにして、ブーメランを投げあう。
…面白っ。
「私も参考にしようかな。鉄で作るの。それで戦うの」
「参考じゃなくて、まんまじゃねェか」
ビシッと、ウソップの手刀が、軽く頭にあたり。
私は笑いながら、さっきより力を込め、ブーメランを投げる。
カキーン。
「スゲェ、チョッパー!ホームランだ!」
ガチャ。
「おい、お前ら、オヤツだ。そこで食べんだろ?これ持ってけ」
ブン。
「結構飛びそうだよ!」
わくわくとウソップにそう告げた私の目の前で。
高く上がったホームランボールに、ブーメランがぶつかった。
固まる私たちの前で。
ボールは角度を変え。
急降下。
次の瞬間。
ガラスや陶器の割れる音が、辺りに響き渡った。
恐ろしいほどの沈黙の中、ブーメランは忠実に、私の処に戻ってくる。
「あああ、オヤツー」
苦渋に満ちたルフィとチョッパーの声。
「お前ら…、いっぺんオロされねェと、判らねェらしいな」
怒りに満ちた、サンジの声。
響き渡る、悲鳴と怒号と破壊音。
「…消費しない武器、今度にしたら?ウソップ…」
「そうだな…真鶸」
手に持つブーメランを、下手投げで、海の方へ。
あがった水飛沫の音は。
私とウソップの耳だけに、やけに響いた。
「うわー、落ち着けサンジー!」
聴こえる悲鳴の方へ、私たちは。
顔の前で両手をあわせて。
こっそり、謝った。
'07.07.27
Written by Moco
(宮叉 乃子)