36etude | ナノ
愛とお金

「きょうだい?ノジコって姉がいるわ」
「私はいないけど。…真鶸、どうしたの?急に」

昼下がり。
甲板にしつらえた、パラソル付きテーブルで、女同士のお話。

「ナミのお姉さんは、いいお姉さん?」

ナミはソーダを口にしながら、にっこり笑う。

「いいなあ…」
「あら、でも、真鶸には、妹がいたんじゃなかった?」

ロビンの問いに、私は、くわえたストローを逆噴射。

「お行儀わるいわよ」

ロビンのたしなめを聞き流し、グラスを両手で握りしめ。
私は、叫ぶように言った。

「妹なんかやだ!」

ナミとロビンが、顔を見合せた。

《愛とお金》

「お金の無心?真鶸、この前送ってたわよね?5万ベリー」
「5万ベリー!?真鶸、アンタ何でそんなお金持ってたのよ」

ナミに肩を掴まれ、揺さぶられる。

「…なけなしの…貯金…」
「妹の遊興費に送るくらいなら、私に寄越しなさいよ」
「その理屈わかんない、ナミ…」

揺すぶりから解放され、ぐったりとなった私の背中を、ロビンが撫でてくれる。

「あなたも余裕がある訳じゃないもの。遊興費と判ってるなら、送る必要ないんじゃない?」
「そうなんだけど」

しつこいのよ。あいつは。
すっぽんのような女なのよ!

「ああ。お兄ちゃんかお姉ちゃんが欲しかったよー」
「おれじゃ駄目かい?プリンセス」

コトリと、テーブルにおやつの皿を置きながら、サンジがいう。

「真鶸ちゃんが妹だったら、クソ可愛がるぜ、おれは」


『お兄ちゃん、一人で寝るの怖いの』
『真鶸はいくつになっても子どもだな。さ、こっちにおいで』
『もっと近くにいっていい?』
『真鶸、そんなにくっついたら…』


「デュフ、デュフフフ…いい…」
「全部声に出てるよ…。それにサンジ、私より年下じゃ…」

椅子ごと体を避けて、表す感情は『ドン引き』。

「なんの話だ?」

横から現れたチョッパーの口に、おやつのケーキを一口押し込んだ。

「お兄ちゃんとか欲しかったなぁ、って」
「おれ、なってやるぞ」
「気持ちだけ貰っとく」
「なんでだ?」

口の横のクリームを拭いてあげながら、私は苦笑い。

「よし、お前の気持ちはよく判った」
「いきなり何なの、フランキー…」

ポーズを決めつつ、突然現れたフランキーに、おののきながら問いかける。

「アニキと呼んで構わねぇぜ」

親指で自分の顔を示すフランキーに、私は、顔の前で手を横に振りながら。

「変態の身内は結構です」
「嬉しいこと言ってくれんじゃねぇのー」
「…!?」

呆然とする私の前で、溢れる涙を腕で拭いながら。
フランキーは、どこからかギターを取りだし、

「心配すんな、泣いてないぜ。…歌います『兄弟船』」
「その歌はヤメて!そして、結構の意味が違うから!!」

歌うフランキー。
デュフデュフ笑い続けるサンジ。
なんでなんでと、繰り返すチョッパー。

私は、ナミとロビンを見る。

「なんとかしてー」
「アンタが悪いわ、真鶸」
「ナミ、冷たいよー」

ナミはフッと笑い、立ち上がると。
私が見せた無心の手紙を、人指し指と中指に挟んでひらつかせた。

「冷たい?今からアンタの妹に電話して、遊ぶ金くらい自分で稼げ、って言ってあげるつもりなんだけど」
「ホント!?」

ナミなら、あの悪魔を言い負かしてくれるかも。
私は、キラキラした眼差しでナミを見つめた。

「ありがとー、ナミ!ナミ姉さんって呼んじゃう」

私の方が年上だけど。

歩き去るナミに向かって叫ぶと、ナミはにっこり笑って振り返り、

「いいわよ、真鶸。次からは妹じゃなく、姉に投資しなさい?」

ウインクして、伝電虫のあるキッチンに消えて行く。

「あら、やられたわね、真鶸」
「…」

私は、相変わらずの周囲と、キッチンを交互に見つめ。
諦めて目を閉じ、ロビンに言った。

「ロビン、一人っ子で正解だよ」

'07.07.16
Written by Moco
(宮叉 乃子)

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