「きょうだい?ノジコって姉がいるわ」
「私はいないけど。…真鶸、どうしたの?急に」
昼下がり。
甲板にしつらえた、パラソル付きテーブルで、女同士のお話。
「ナミのお姉さんは、いいお姉さん?」
ナミはソーダを口にしながら、にっこり笑う。
「いいなあ…」
「あら、でも、真鶸には、妹がいたんじゃなかった?」
ロビンの問いに、私は、くわえたストローを逆噴射。
「お行儀わるいわよ」
ロビンのたしなめを聞き流し、グラスを両手で握りしめ。
私は、叫ぶように言った。
「妹なんかやだ!」
ナミとロビンが、顔を見合せた。
《愛とお金》
「お金の無心?真鶸、この前送ってたわよね?5万ベリー」
「5万ベリー!?真鶸、アンタ何でそんなお金持ってたのよ」
ナミに肩を掴まれ、揺さぶられる。
「…なけなしの…貯金…」
「妹の遊興費に送るくらいなら、私に寄越しなさいよ」
「その理屈わかんない、ナミ…」
揺すぶりから解放され、ぐったりとなった私の背中を、ロビンが撫でてくれる。
「あなたも余裕がある訳じゃないもの。遊興費と判ってるなら、送る必要ないんじゃない?」
「そうなんだけど」
しつこいのよ。あいつは。
すっぽんのような女なのよ!
「ああ。お兄ちゃんかお姉ちゃんが欲しかったよー」
「おれじゃ駄目かい?プリンセス」
コトリと、テーブルにおやつの皿を置きながら、サンジがいう。
「真鶸ちゃんが妹だったら、クソ可愛がるぜ、おれは」
『お兄ちゃん、一人で寝るの怖いの』
『真鶸はいくつになっても子どもだな。さ、こっちにおいで』
『もっと近くにいっていい?』
『真鶸、そんなにくっついたら…』
「デュフ、デュフフフ…いい…」
「全部声に出てるよ…。それにサンジ、私より年下じゃ…」
椅子ごと体を避けて、表す感情は『ドン引き』。
「なんの話だ?」
横から現れたチョッパーの口に、おやつのケーキを一口押し込んだ。
「お兄ちゃんとか欲しかったなぁ、って」
「おれ、なってやるぞ」
「気持ちだけ貰っとく」
「なんでだ?」
口の横のクリームを拭いてあげながら、私は苦笑い。
「よし、お前の気持ちはよく判った」
「いきなり何なの、フランキー…」
ポーズを決めつつ、突然現れたフランキーに、おののきながら問いかける。
「アニキと呼んで構わねぇぜ」
親指で自分の顔を示すフランキーに、私は、顔の前で手を横に振りながら。
「変態の身内は結構です」
「嬉しいこと言ってくれんじゃねぇのー」
「…!?」
呆然とする私の前で、溢れる涙を腕で拭いながら。
フランキーは、どこからかギターを取りだし、
「心配すんな、泣いてないぜ。…歌います『兄弟船』」
「その歌はヤメて!そして、結構の意味が違うから!!」
歌うフランキー。
デュフデュフ笑い続けるサンジ。
なんでなんでと、繰り返すチョッパー。
私は、ナミとロビンを見る。
「なんとかしてー」
「アンタが悪いわ、真鶸」
「ナミ、冷たいよー」
ナミはフッと笑い、立ち上がると。
私が見せた無心の手紙を、人指し指と中指に挟んでひらつかせた。
「冷たい?今からアンタの妹に電話して、遊ぶ金くらい自分で稼げ、って言ってあげるつもりなんだけど」
「ホント!?」
ナミなら、あの悪魔を言い負かしてくれるかも。
私は、キラキラした眼差しでナミを見つめた。
「ありがとー、ナミ!ナミ姉さんって呼んじゃう」
私の方が年上だけど。
歩き去るナミに向かって叫ぶと、ナミはにっこり笑って振り返り、
「いいわよ、真鶸。次からは妹じゃなく、姉に投資しなさい?」
ウインクして、伝電虫のあるキッチンに消えて行く。
「あら、やられたわね、真鶸」
「…」
私は、相変わらずの周囲と、キッチンを交互に見つめ。
諦めて目を閉じ、ロビンに言った。
「ロビン、一人っ子で正解だよ」
'07.07.16
Written by Moco
(宮叉 乃子)