「私は、とめたもん…」
「実際いないんだから、言い訳になってないのよ、真鶸」
ナミは物凄く怖い笑顔。
相反する表現だけど、そうとしか言えない。
「ログがたまり次第出発って、言ったわよね?」
「…聞きました」
「ログがたまるまであと3時間だから、ゾロは出かけさせるな、とも言ったわよね?」
ナミは笑顔のまま、私の肩に手を置いた。
「真鶸、ゾロを探してくるまでゴハン抜き」
見上げると、オレンジ色に染まる空。
私のお腹が、くぅ、と鳴った。
《Go Home…》
「うわーん、いたー!ゾロー」
「真鶸。何やってんだ、お前。船番だろ?」
「ゾロだってそうでしょ!」
街の外れをうろついていたゾロを。
ツッコミながら、ポカッと殴る。
「ゾロが帰って来ないから、ナミが笑顔で怖くて、ゴハンなしで、探してこいって。女一人で、暗くなるのにー!!」
「…帰って来ねェって、お前ら、船動かしただろ?ねェぞ」
「そんなセリフ、少なくとも海の見えるトコで言いなよ!」
ひときわ力を入れて、ゾロの二の腕を叩く。
ちっとも痛くなさそうで、私は、ものすごく悔しくなった。
「行こう。暗くなっちゃう」
空はオレンジな時間を過ぎ、紫に染まり出している。
くるりと踵を返して、後ろのゾロに声をかけた。
返事がないのに振り向くと、細い路地に消えて行こうとする、三本刀。
「ゾロ!!」
慌てて後を追い、引き戻す。
「ゾロ、私の前を歩いて、前を!」
ゾロは、渋々といった感じで、私の前を歩き出した。
大通りに出ると。
立ち並ぶ店はもう、閉店の準備を始めてる。
「この通りをまっすぐだからね、まっすぐ」
「曲がった方が、近道なんじゃねェのか?」
「まっすぐって言ってるでしょ!?」
いっこも、話、聞いてない。
私は、空腹で。
黄昏時で。
悲しくなってきて。
涙が出てきた。
「真鶸、なに泣いてんだ、お前」
「──っく」
ゾロの声が、珍しく、オロオロとした色を帯びている。
「しょうがねェ…」
ゾロは、息を一つ吐いて、近くの店に向かう。
閉店準備をしてる店員さんに、話しかけ、一分ほどして戻ってきた。
「真鶸、口開けろ」
私がしゃくりあげながら、それでも素直に口をあけると。
そこに、大きな飴玉が押し込まれる。
「腹減ってんだろ」
私のアタマを大きな掌で、ぽんぽんと撫でた後。
ゾロは、進むべき方向に体を向け、後ろ向きに手を差し出した。
「早く帰って夕飯食わねェとな」
ゾロの手に、片手を乗せると。
熱い掌が、ぎゅっと、私の手を握り締める。
「真鶸、帰んぞ」
ゆっくり歩き出す。
空のムラサキはもう、夜に飲み込まれそうになっていて。
通りぞいの家の窓にも、次々と灯りがともりだす。
「だから、なんでまっすぐ行かないの!?」
「あァ!?行ってんだろ!」
「行ってないよ!」
家々から、団欒の笑い声が洩れ聞こえる中。
私たちの団欒の場所は、まだ、遠い。
07.07.15
Written by Moco
(宮叉 乃子)