36etude | ナノ
Go Home…

「私は、とめたもん…」
「実際いないんだから、言い訳になってないのよ、真鶸」

ナミは物凄く怖い笑顔。

相反する表現だけど、そうとしか言えない。

「ログがたまり次第出発って、言ったわよね?」
「…聞きました」
「ログがたまるまであと3時間だから、ゾロは出かけさせるな、とも言ったわよね?」

ナミは笑顔のまま、私の肩に手を置いた。

「真鶸、ゾロを探してくるまでゴハン抜き」

見上げると、オレンジ色に染まる空。
私のお腹が、くぅ、と鳴った。

《Go Home…》

「うわーん、いたー!ゾロー」
「真鶸。何やってんだ、お前。船番だろ?」
「ゾロだってそうでしょ!」

街の外れをうろついていたゾロを。
ツッコミながら、ポカッと殴る。

「ゾロが帰って来ないから、ナミが笑顔で怖くて、ゴハンなしで、探してこいって。女一人で、暗くなるのにー!!」
「…帰って来ねェって、お前ら、船動かしただろ?ねェぞ」
「そんなセリフ、少なくとも海の見えるトコで言いなよ!」

ひときわ力を入れて、ゾロの二の腕を叩く。
ちっとも痛くなさそうで、私は、ものすごく悔しくなった。

「行こう。暗くなっちゃう」

空はオレンジな時間を過ぎ、紫に染まり出している。

くるりと踵を返して、後ろのゾロに声をかけた。
返事がないのに振り向くと、細い路地に消えて行こうとする、三本刀。

「ゾロ!!」

慌てて後を追い、引き戻す。

「ゾロ、私の前を歩いて、前を!」

ゾロは、渋々といった感じで、私の前を歩き出した。
大通りに出ると。
立ち並ぶ店はもう、閉店の準備を始めてる。

「この通りをまっすぐだからね、まっすぐ」
「曲がった方が、近道なんじゃねェのか?」
「まっすぐって言ってるでしょ!?」

いっこも、話、聞いてない。

私は、空腹で。
黄昏時で。
悲しくなってきて。

涙が出てきた。

「真鶸、なに泣いてんだ、お前」
「──っく」

ゾロの声が、珍しく、オロオロとした色を帯びている。

「しょうがねェ…」

ゾロは、息を一つ吐いて、近くの店に向かう。
閉店準備をしてる店員さんに、話しかけ、一分ほどして戻ってきた。

「真鶸、口開けろ」

私がしゃくりあげながら、それでも素直に口をあけると。
そこに、大きな飴玉が押し込まれる。

「腹減ってんだろ」

私のアタマを大きな掌で、ぽんぽんと撫でた後。
ゾロは、進むべき方向に体を向け、後ろ向きに手を差し出した。

「早く帰って夕飯食わねェとな」

ゾロの手に、片手を乗せると。
熱い掌が、ぎゅっと、私の手を握り締める。

「真鶸、帰んぞ」

ゆっくり歩き出す。

空のムラサキはもう、夜に飲み込まれそうになっていて。
通りぞいの家の窓にも、次々と灯りがともりだす。

「だから、なんでまっすぐ行かないの!?」
「あァ!?行ってんだろ!」
「行ってないよ!」

家々から、団欒の笑い声が洩れ聞こえる中。

私たちの団欒の場所は、まだ、遠い。

07.07.15
Written by Moco
(宮叉 乃子)

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