36etude | ナノ
彼は誰(かわたれ)

朝もやが、私を包む。
夜明けは近いみたいだけど。
辺りはまだ、薄暗い。

海の様子すら見えず。
ただ冷たい風を楽しむだけ。

でも、早すぎる目覚めに。
まだついてこない躰には、丁度いい。

ホントは眠りなおしたいけど。
頭が完全に覚醒しているから、多分ムリ。

「ふわぁ…」

大きな欠伸が一つ、出た。

《彼は誰[かわたれ]》

キィ、バタン。

ドアが開いて、閉じて。
足音が聞こえた。

船縁に腕をもたれてさせていた私は、躰を反転させ、甲板を振り返る。

薄闇と朝もやに浮かび上がる影。

あ、ルフィだ。

ルフィも私に気付いたらしく、立ち止まった。

「誰かいんのか?」

問いかけに片手をひらひら振って、アピール。

「サンジか?」

身長とか、全然違うでしょ。
シルエットがぼやけてるから、わかんないのかな?

ルフィに向かって、首を大きく横に振ってみせる。

ルフィはこっちを指差し(ちゃんと見えないけど、そこは影の感じで)、

「わかった!ウソップだろ?」

鼻、鼻が違うから。

顔の前あたりで、ぶんぶん手を振って見せる。
否定のジェスチャー。

ルフィは、首を傾げ、

「ゾロかー?」

こんな時間にゾロが起きてたら、奇跡だよね!

両手で大きなバッテン。

ルフィは腕組みし。
そして首、というか、腰から躰を60度ほど傾けた。

「…フランキー?」

うーん、スーパー!
て、そんなわけが!!

リーゼントもなければ、あんなにガタイも良くないし。

私は、がっくりとうなだれて見せた。

ルフィは頬の辺りをぽりぽりかきながら、

「チョッパーか?でも、ツノがねェな」
「あるわけないでしょ!」

我慢できず、私は突っ込んだ。

ルフィがぽん、と得心したように手を叩いて、近付いてくる。

「なんだ、真鶸か」
「さっきからなによ!暗いし、間違うのはしょうがないけど、男ばっかり!!」

ルフィの影がだんだんはっきりしてくる。
笑顔だ、というのが判るくらい、ルフィが近付いて

「ナミとロビンじゃねェってのは、すぐわかったんだ」

そのルフィの視線は。
私の胸元に。

静かなかわたれ時に。
私の平手うちの音が、高らかに響いた。

'07.07.14
Written by Moco
(宮叉 乃子)

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