「それ、白地図?」
「そうよ。今、ロビンと埋めてみてたの」
大きな紙には、縦に2ヶ所陸地を示すらしい線。
そして横に2本、カームベルトを表す線、それだけ。
鵞ペンで×印をつけ、その下に島の名を書き込むナミを見ながら。
隣の椅子に、腰掛けた。
「ここが、真鶸がいた島ね」
グランドラインを表す、2本の横線の間。
その中に書かれた×印の一つを、ペン先で指しながら、ナミが教えてくれる。
「ナミがいたとこは?」
「この辺ね」
「ロビンは?」
イーストブルーの一角の×印を、円を描くようにしてナミがペン先で示すと、
「これね」
反対側に座ってるロビンが続けて、ウエストブルーの×印を、指で押さえるように指した。
「可憐な妖精たちの会合かと、見粉いました」
カタンという微かな音と共に、白地図の横に置かれたお皿。
「まさか、それがナミさんたちだったとは」
「あら、サンジ君。それ可愛いわね」
サンジの軽口をサラリと受け流し、ナミが皿を指差すと、
「中はアイスクリームなんで。お早めに」
巾着型のクレープを小皿に取り分けながら、サンジがニッカリ笑う。
「ホントに可愛い!よくこんなの作れるね、サンジ」
渡されたクレープの、絞り部分に飾られたガーベラをつつき、私が感嘆の声をあげると。
サンジはぐるっと首をこちらに廻らせ、鼻息荒く、
「え、惚れた?真鶸ちゃん」
「うっ、いやー……」
サンジのこの調子に、まだ慣れてない私は。
言葉を噛み潰すようにして、ゴニョゴニョと語尾を濁す。
ロビンがクスクス笑いながら、蘭の花が飾られたクレープを受け取り。
反対の手で、カップを示しながら、サンジを見上げた。
「もう一杯、コーヒーを入れて頂けないかしら?」
「うおっ、惚れて頂けないかしら!?」
「ええっ!」
どうやったらそうなる!と、驚きながら視線を向けると。
サンジは指で作ったハートを胸の前に構えながら、ハート型の煙を吐いている。
「いい加減に慣れなさいよ、真鶸」
そう言いながら、ナミがクレープにスプーンを沈めると。
飾りのハイビスカスが、お皿の上にポトリと落ちた。
《Looking for……》
「適当にあしらってればいいのよ。サンジ君は」
クレープを口に運びながら、ナミがどうでも良さそうに口を開く。
「あら、可哀想」
「じゃ、ロビンは真面目に取り合ってるわけ?」
「まさか」
スプーンを口に運びながら、両隣を交互に見つめて、話を聞いてると。
少しだけ、サンジが気の毒になってきた。
「あれはもう、癖ね」
「扱いが簡単でいいわ」
ナミは、ほぼ全員を簡単に操ってるじゃない。
もちろんその言葉は、クレープと一緒に飲み込む。
怒られたら、怖いもんね。
「お待たせしました、ロビンちゃん」
「ありがとう」
戻ってきたサンジが、ロビンの前にコーヒーを置き。
「真鶸ちゃんは、こっちな」
続いて、私の前に紅茶を。
「ありがと」
そして最後に、ミルクピッチャーをテーブルに置いた。
「そういえば、サンジがいたのは、どの辺り?」
狭くなってきたテーブルから、白地図を退けようとしたサンジに、声をかける。
「ん?」
「サンジがいたのは、この地図でいえば、どの辺り?」
「この辺みてェだな」
白地図の×の一つを探し当て、サンジが指差す。
「バ・ラ・ティ・エ?…って、レストランと同じ名前だね」
「まさにそこですとも、レディ」
「そういえば、サンジ君はノースブルー出身だって言ってたわね。…船に乗った場所を描いちゃったわ」
ナミが、半分以上残っているアイスティーを飲みながら、そう言うと、
「じゃあ私は、アラバスタからになるわね」
ロビンが鵞ペンの羽の方で、×の一つを指した。
「なんか、このへんと」
私はイーストブルーの辺りを、指で円を描くように示してから、
「グランドラインしか埋まってないね」
×が線状に並ぶ、グランドラインの上にも、指で円を描いた。
「あのね、真鶸。ルフィがここから」
ナミが、イーストブルーの端の×印を、指先でぱんっと弾き、
「こう進んで来たんだから、当たり前でしょ」
×をなぞって、この前立ち寄った島まで辿りつくと、溜め息混じりにそう言った。
「だけど、こっち側がスゴく真っ白で、寂しいじゃない」
負けじと、レッドラインを越えた先の、まっさらな『新世界』を指差しながら言うと、
「まだ行ってないんだから、当たり前でしょ」
「い、いひゃい。ナミ」
ナミが私の両頬を、横に広げるように掴む。
「ナミさん。もう、その辺で」
「そうよ、真鶸に悪気があるわけじゃないんだから」
「まったく」
肩をすくめるようにしながら、椅子に掛けなおしたナミを横目に。
私は頬を、掌で擦る。
「真鶸ちゃん。真っ白なのは別に、寂しい訳じゃねェぜ?」
「え?」
片手で頬を撫でながら、内側からも頬を冷やそうと、アイスを口にした私に。
サンジが、『新世界』の辺りを示しながら、笑う。
「おれたちが求めてるものも、求めてないものも。いろんなもんが、まだまだ残ってるって事だろ」
小首を傾げながら見上げると、サンジは満面の笑みを浮かべて、ぱんっと白地図をはたいた。
「冒険には、事欠かねェよ」
ナミが笑って、ストローに口をつけ。
ロビンは飾りの蘭を摘み、楽しそうに香りをかいだ。
私は、ぼんやりとサンジを見上げて、
「なんか、サンジって不思議」
ヘラッと笑った。
今度は、サンジが首を傾げて、
「不思議って?」
「うーん。なんていうか」
「はっ、もしかして惚れた?真鶸ちゃん」
「ん?ああ」
私は、瞳を一度くるめかせてから。
なるべくミステリアスに見えるように微笑み、口を開いた。
「もしかしたら、そうかもね」
'08.01.20
Written by Moco
(宮叉 乃子)