「真鶸。その服、可愛いわね」
「でしょーっ」
私はくるっと回って、ナミにお気に入りの服を見せる。
「可愛かったから、置いてこられなかったの」
「いつもの感じと違うじゃない。珍しいわね、そういう服」
サニー号の外柵に、横向きに寄りかかったナミが、首を傾げる。
私は両手で頬を抑え、クスクス笑いながら答えた。
「だって、デート服だもん」
「誰との?」
あまりにも冷静なツッコミに、私は少し鼻白む。
「…み、未来の彼氏」
「デートなんか、どこでするのよ?まさか、ここ?」
言いながら、呆れたように甲板を見回すナミに。
私は服の裾を摘んで広げながら、精一杯穏やかに言った。
「着るあてがないから、今、着てるんでしょ」
《心には翼がある》
「で、髪型にまで凝ったわけ?」
「いざって時に決まらなかったらヤじゃない?備えあれば──」
「でも、あてはないんでしょ、真鶸」
私はぐっと言葉に詰まりながら、船にもたれて、
「で、でも、恋はハリケーンみたいに突然だって」
「……」
「言いたい事あるなら、はっきり言って、ナミ」
口を半開きにして微かに目を細めたナミは、一つ息を吐くと。
船に、背中を預けるように寄りかかりなおした。
「バカみたい」
「えー!そんなはっきり」
私が、ガックリとうなだれたその時、
「きゃ」
グラリと船が揺れて、私は背中を強かに打った。
私よりも早く体勢を整えたナミが、船から乗り出すように前方を見る。
「舵をきって!とり舵!」
バタバタとルフィたちが船首の方へ駆けて行き、再び船が激しく揺れた。
船旅を始めたばかりの私は、なす術もなく船にしがみつき、ただ波を被る事しか出来ない。
「うぁ…」
それでもしっかりと開けていた瞳に映る、見たこともないくらい大きな海王類。
僅かな距離をおいて通り過ぎたサニー号を、チラリと見てから、海王類は退屈そうに海中へと戻っていく。
起きた波で、また大きく揺れた船。
何も見なくていいように、今度はぎゅっと目を閉じた。
「あー、鳥だぁ」
どのくらいの時間が過ぎたのか。
座り込んだまま、ぼんやりと空を見上げていた私の目に映る、鳥の群れ。
「鳥だったらこんな目にあわないで、目的地まで飛んで行けるのになー」
鳥の群れを目で追いながらそう言うと、急に頭を小突かれた。
「痛い、ナミ」
横に立っていたナミが、キャミソールの裾を絞り、
「真鶸。アンタ、本気で言ってんの?」
私の頬を摘んで、持ち上げるように引っ張った。
私は引っ張られるまま、外柵に手をかけ、立ち上がる。
「おっ、真鶸。大丈夫かー?」
船首の方から階段を降りて来たルフィが、そう言って手を振る。
「さっきのヤツ、でかかったな!真鶸も見たかー?」
チョッパーが、船のずっと後方を示す隣で、
「おれは、もっと大きな海王類を見たことがある」
ウソップが腕組みをして、そう言った。
「えェェ!ウソップ、スゲェ!」
「真鶸ちゃん、怖かったろ?次の時は、波がおさまるまでおれの胸で──」
チョッパーが、キラキラとした眼差しで、ウソップを見上げ。
その横ではサンジが、顔を指差しながら、存在をアピールする。
「ちょっとぶつかったくれェじゃ、この船はびくともしねェのよ」
「ぶつかる前に、邪魔なモンは斬りゃいいだろ」
誇らしげなフランキーの横で、ゾロがこともなげに言い切った。
ナミに摘まれた頬をさすりながら、みんなを順番に見つめる。
隣のナミが、私の脇腹を肘でつついた。
「真鶸?」
私はもう一度、空を見た。
「ううん。鳥より」
ナミの方へ顔を寄せ、私は小声で囁く。
「みんなと一緒がいい」
ナミが、嬉しそうに笑った。
「そのままじゃ風邪を引くわ。お風呂、入れてきましょうか?」
本を片手に立っていたロビンが、頬に手を当てながら、私たちを見つめている。
「デート服だったのにね、真鶸」
「いいよ。冒険には不要の服だったみたい」
「あら、突然来るかもしれないんでしょ?恋」
ナミが悪戯っぽく笑う。
「うわ、今来たらどうしよ」
服の裾を絞って、私も笑った。
2人でクスクスと暫く笑いあった後、ナミがウインクしながら、
「じゃ。早めに洗濯しないとね」
07.11.29
Written by Moco
(宮叉 乃子)