36etude | ナノ
心には翼がある

「真鶸。その服、可愛いわね」
「でしょーっ」

私はくるっと回って、ナミにお気に入りの服を見せる。

「可愛かったから、置いてこられなかったの」
「いつもの感じと違うじゃない。珍しいわね、そういう服」

サニー号の外柵に、横向きに寄りかかったナミが、首を傾げる。
私は両手で頬を抑え、クスクス笑いながら答えた。

「だって、デート服だもん」
「誰との?」

あまりにも冷静なツッコミに、私は少し鼻白む。

「…み、未来の彼氏」
「デートなんか、どこでするのよ?まさか、ここ?」

言いながら、呆れたように甲板を見回すナミに。
私は服の裾を摘んで広げながら、精一杯穏やかに言った。

「着るあてがないから、今、着てるんでしょ」

《心には翼がある》

「で、髪型にまで凝ったわけ?」
「いざって時に決まらなかったらヤじゃない?備えあれば──」
「でも、あてはないんでしょ、真鶸」

私はぐっと言葉に詰まりながら、船にもたれて、

「で、でも、恋はハリケーンみたいに突然だって」
「……」
「言いたい事あるなら、はっきり言って、ナミ」

口を半開きにして微かに目を細めたナミは、一つ息を吐くと。
船に、背中を預けるように寄りかかりなおした。

「バカみたい」
「えー!そんなはっきり」

私が、ガックリとうなだれたその時、

「きゃ」

グラリと船が揺れて、私は背中を強かに打った。
私よりも早く体勢を整えたナミが、船から乗り出すように前方を見る。

「舵をきって!とり舵!」

バタバタとルフィたちが船首の方へ駆けて行き、再び船が激しく揺れた。

船旅を始めたばかりの私は、なす術もなく船にしがみつき、ただ波を被る事しか出来ない。

「うぁ…」

それでもしっかりと開けていた瞳に映る、見たこともないくらい大きな海王類。

僅かな距離をおいて通り過ぎたサニー号を、チラリと見てから、海王類は退屈そうに海中へと戻っていく。

起きた波で、また大きく揺れた船。
何も見なくていいように、今度はぎゅっと目を閉じた。

「あー、鳥だぁ」

どのくらいの時間が過ぎたのか。

座り込んだまま、ぼんやりと空を見上げていた私の目に映る、鳥の群れ。

「鳥だったらこんな目にあわないで、目的地まで飛んで行けるのになー」

鳥の群れを目で追いながらそう言うと、急に頭を小突かれた。

「痛い、ナミ」

横に立っていたナミが、キャミソールの裾を絞り、

「真鶸。アンタ、本気で言ってんの?」

私の頬を摘んで、持ち上げるように引っ張った。
私は引っ張られるまま、外柵に手をかけ、立ち上がる。

「おっ、真鶸。大丈夫かー?」

船首の方から階段を降りて来たルフィが、そう言って手を振る。

「さっきのヤツ、でかかったな!真鶸も見たかー?」

チョッパーが、船のずっと後方を示す隣で、

「おれは、もっと大きな海王類を見たことがある」

ウソップが腕組みをして、そう言った。

「えェェ!ウソップ、スゲェ!」
「真鶸ちゃん、怖かったろ?次の時は、波がおさまるまでおれの胸で──」

チョッパーが、キラキラとした眼差しで、ウソップを見上げ。
その横ではサンジが、顔を指差しながら、存在をアピールする。

「ちょっとぶつかったくれェじゃ、この船はびくともしねェのよ」
「ぶつかる前に、邪魔なモンは斬りゃいいだろ」

誇らしげなフランキーの横で、ゾロがこともなげに言い切った。

ナミに摘まれた頬をさすりながら、みんなを順番に見つめる。
隣のナミが、私の脇腹を肘でつついた。

「真鶸?」

私はもう一度、空を見た。

「ううん。鳥より」

ナミの方へ顔を寄せ、私は小声で囁く。

「みんなと一緒がいい」

ナミが、嬉しそうに笑った。

「そのままじゃ風邪を引くわ。お風呂、入れてきましょうか?」

本を片手に立っていたロビンが、頬に手を当てながら、私たちを見つめている。

「デート服だったのにね、真鶸」
「いいよ。冒険には不要の服だったみたい」
「あら、突然来るかもしれないんでしょ?恋」

ナミが悪戯っぽく笑う。

「うわ、今来たらどうしよ」

服の裾を絞って、私も笑った。
2人でクスクスと暫く笑いあった後、ナミがウインクしながら、

「じゃ。早めに洗濯しないとね」

07.11.29
Written by Moco
(宮叉 乃子)

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