「うまほー!!今日、山盛りの骨つき肉が食いたかったんだ!」
キッチンに飛込んできたルフィが、料理を見るなり歓声を上げた。
「そういや、そう言ってたな」
ウソップの相槌をスルーして、肉の一番近く(私の隣ね)に腰かけたルフィが、しししと笑う。
「真鶸も肉、狙ってんのか?」
私は、首を横に振る。
凄く美味しそうな、骨つきラムだけど。
私の狙いは、お肉じゃないんだ。
ルフィに向かってニッコリ笑った私を見て、向かいに座るサンジが、深いため息をついた。
《キミが魔法》
「真鶸ちゃん…」
私をキッチンで見付けると、サンジは最近、微妙な表情をする。
「サンジ、ホットケーキ作って。フライパンいーっぱいの、大きいやつ」
私は気付かない振りをして、とびきりの笑顔を見せる。
倉庫から出してきた食材をシンクに広げながら、サンジは、ぐるぐるの眉を少し寄せた。
「真鶸ちゃんの頼みなら、是非。…と言いてェところだが」
転がるジャガイモを押さえながら、サンジは首を振り。
「それ、真鶸ちゃんが食うんじゃねェだ…」
「食べたいなー。2枚重ねのヤツ」
唇に指をあて、上目使いにそう言うと。
しかめっ面のサンジの頬が、ぴくっと動いた。
「お願い」
「…よ、喜んで!」
「やった!サンジ、大好き!!」
すーっごく扱いやすくて。
私は鼻唄を歌いながら、サンジの華麗な手さばきを見つめる。
「シロップ、沢山かけてね」
キツネ色のホットケーキにうっとりしながら、そう言うと、
「おおせのままに、真鶸ちゃん」
サンジは笑って答えたけど、煙草の煙はグネグネと、捻れ模様を描いた。
お皿の上に、まず一枚。
そして、ちょっと薄めのもう一枚。
リクエスト通りに、たっぷりとメープルシロップ。
大きなバター片と、ホイップクリームも添えられて。
素敵なお皿が、目の前へ。
「めしあがれ」
「美味しそう!ありがと、サンジ」
私の笑顔につられて、サンジも笑顔を浮かべようとした瞬間、
「サンジ!今日のオヤツ、なんだ!?」
キッチンに、転がるようにしてルフィが入ってくる。
そろそろだと思った。
「…やっぱり来たか」
サンジがそう呟いて、私を見つめた後、がっくりと肩を落とした。
ホットケーキの隅っこを、少しだけ口にして、
「ルフィ」
名前を呼ぶと、ルフィがこちらを向いた。
けれど、その視線はすぐにホットケーキに移ってしまう。
「それいいな、真鶸」
「食べる?私、もうお腹いっぱい」
もの凄い勢いで駆け寄ってきたルフィが、
「いいのか!?」
私の手ごとフォークを掴んで、ホットケーキに突き刺した。
「いたらきまふ」
丸々一枚を口に入れた後で、そう言ったルフィの可愛さに。
私は、微笑む。
「真鶸、ありがとな。ホットケーキが、スゲェ食いたかったんだ」
知ってる。
話してるの、聞いちゃったから。
ルフィは嬉しそうに、もう一枚を口へ運ぶと、私の手から指を外した。
ルフィはホットケーキを味わい。
私は手に残る温もりを楽しむ。
「美味かった!…んー。サンジ、何かしょっぱいもんねェか?」
ルフィの前に、叩きつけるように、食卓塩の瓶を置いたサンジに。
私は最上級の笑顔を見せながら、可愛く首を傾げた。
「私もしょっぱいの食べたーい」
「真鶸ちゃ…」
「ポテチとかねー」
うなだれたサンジが、私の視線の先にあったジャガイモを手に取った。
「真鶸、なんか魔法みてェだな」
サンジと私を交互に見て、ルフィが感嘆したように言う。
「そう?」
「おう!スゲーぞ」
その時、苦い顔のサンジと、視線がぶつかった。
「なに?」
「おれは、コイツが気付かねぇ事を祈る」
「サンジ、意地悪ね」
ルフィが首を捻りながら、
「ん?何の話してんだ?お前ら」
眉を寄せるサンジを無視して、私は、ルフィを手招きした。
「あのね」
近付いたルフィの耳に、両手で隠した口許を寄せて囁く。
「魔法使いはルフィだっていう、お話」
'07.09.30
Written by Moco
(宮叉 乃子)