"Cinderella,Double bind"で
フランキーが留守番の理由
「真鶸!この柄いいな」
「でしょ。ルフィに似合うと思ったんだ」
ルフィが、キッチンの窓に顔を押し付け、ウキウキした様子で町を眺める。
今夜は皆、わくわくしてる。
島の、夏祭りがあるから。
「花火あんだろ?」
「うん。お祭の開始に合わせて、あがるみたい」
《大輪花火を
その背に背負って》
「アンタの趣味って、いいのか悪いのかわかんないわ、真鶸」
ルフィの甚平の柄を見ながら、ナミがぼやいた。
「私の浴衣が、その柄じゃなくて良かったわよ、ホント」
「どうして!?いいじゃない、白地に薄墨風の昇り龍」
「カッコいいじゃねェか、龍」
私とルフィの意見は、ナミの深い溜め息に跳ね返される。
「私、趣味悪くないよ!フランキーの甚平なんかね、なんと鷹なんだから!!」
「ゾロの浴衣、鯉だぞ!スーッゲェ跳ねてんだからな!!」
「…まさか、サンジ君のは虎じゃないでしょうね?」
その言葉に、私とルフィは顔を見合わせた。
「虎って。趣味悪っ、ナミ」
「お前、センスねェな」
雷のような早さで落ちてきたゲンコツの衝撃に、私たちは頭を抱えてうめく。
「真鶸ー。ちょうちょ結びしてくれ!」
すごい勢いでドアが開いて、甚平姿のチョッパーが入って来た。
「ルフィが、着替えが一番遅いヤツが船番だっていうけど。…何回やってもちょうちょになんねェんだ」
縦結びの合わせを見せる、チョッパーを手招きして、紐に手を伸ばした。
チョッパーは両手を広げて、私の手元をじっと見つめている。
「皆で行けたらいいのにね」
綺麗な蝶を作り終え、チョッパーのお腹をぽんと叩いた。
「ありがとな、真鶸。ちゃんと蝶だ」
「でも、お祭りは明日もあるから、交代していけば…」
「おれは明日も行くぞ!」
「代わってやんなさいよ!」
小指を鼻の穴に入れながら言うルフィに、ナミのツッコミが入る。
「うぉっ、やべー」
ウソップが飛び込んで来ると。
開いたドアの向こうから、花火の打ち上がる音が聞こえてきた。
「祭、始まるじゃねェか」
ルフィが焦れた声を上げる。
花火の音の間隔が、だんだん短くなってきた。
「ねぇ。甲板で、花火見ながら待たない?」
私がそう言うと、ルフィたちの目がキラキラと輝く。
「頭いいな!真鶸!」
「花火だー!」
「うおー!!」
キッチンのドアを、詰まるように押し合いながら、出て行く3人のあとを。
ゆったり、ナミと私が追う。
「お、フランキーだ!」
「留守番、ロビンかな?ゾロかな?サンジかな?」
「おーい、フラン…」
外のハシャギ声が、急に途切れ。
ドアの手前で、ナミと私は顔を見合わせた。
景気のよい花火の音すら、不気味に思えてくる程の沈黙。
ナミが先にドアを抜け、私が急いでその後に続いた。
「どうしたの!?」
目に入る、ガックリと顎を落としたナミ。
皆も、全く同じ表情。
私は、ナミたちの視線を追った。
漆黒の夜空に、次々と咲く花火。
「真鶸!この柄、イカすじゃねェか!」
そして、その花火をバックに。
背中の鷹柄をこちらに見せ付けながら、ポーズを取るフランキー。
「……」
次の瞬間、私の顎もガックリと落ちた。
「なんでなにも言わねェのよ!この、スーパーなおれの姿に!!」
憤慨して、こっちに向かってくるフランキーは。
「真鶸!何で浴衣にしなかったのよっ!」
「あの手首が通る、浴衣の袖口なんかないよっ!」
【甚平の上】だけを、きっちりと着こなし。
その裾から、海パンがチラチラと、顔を覗かせる。
まさに完全な──
「ギャー、変態ィ!」
「下はどうしたんだよっ!」
騒ぐ私たちの側で、フランキーはサングラスをグイ、と押し上げた。
「ちゃんと一張羅、履いてんじゃねェの。こっちのが、しっくりくんだろ?」
私たちは一斉に、首を横に振った。
今まで黙っていたルフィが、そこで重々しく口を開く。
「フランキー、お前、船番」
今度は、フランキーの顎が、ガクリと落ちた。
'07.09.07
(08.08.20 後半改稿)
Written by Moco
(宮叉 乃子)