S×S【1】 | ナノ
In A Festive Mood

時は深夜。場所は、波間を静かに進むサニー号のキッチン。
ナミを除いたクルー全員で、明日の誕生パーティーの準備をしている。

ブルックの練習している曲をBGMに、めいめい作業に取り組む中、私は明日の進行を考えながら、鵞ペンをクルリと回した。

それを見たチョッパーが、テーブルの向こう側で目を輝かせる。
調子に乗って何度もペンを回していると、ルフィが私のノートに、鉛筆で文字を書き込んだ。



乾盃⇒ルフィ
司会⇒ウソップ
料理⇒サンジ
買物⇒ロビン
音楽⇒ブルック

まるやき。にく



「…どんな分担表!?」

鉛筆の文字を鵞ペンで塗り潰すと、隣でルフィがぶつぶつと文句を言った。

「消す前に、サンジに頼んでくれてもいいじゃねェか、翡翠」
「自分で言ったら?」
「昼間言ったけど、怒られちまった」
「えー。だったら余計やだよ」
「女だったら怒らねェだろ、サンジは」
「でも、別に丸焼き食べたくないもん、私」

そう言い返しながらも、私は一応カウンター奥のサンジに目をやった。

ロビンとケーキのデザインを打ち合わせているサンジは、フルーツのシロップ漬けをボールにあけながらデレデレと笑み崩れている。

サンジなら『ナミさんに捧げる創作フルコース』の1つや2つくらい、簡単に思いつくはず。
あれは多分、ロビンと話していたいだけなんだろうな。

「シンプルなケーキも素敵ね」
「ツヤツヤのチョココーティングにナイフを入れると、カットしたところから、少しオレンジが覗くんだ」

空になったビンを持ったまま、サンジはカウンター越しにケーキのデザイン画を指差した。優雅にスツールに掛けたロビンが、微笑みながらデザイン画をめくる。

そこまで見たところで、私はルフィに向き直った。

「今、いきなり『丸焼き』って言ったら、変だと思う」
「そうか?」
「絶対変だよ!」

小声で言い争っていると、ロビンの笑顔に身をくねらせていたサンジが、急にこっちを向いた。

「翡翠ちゃんは、明日、何か食いてェもんある?」
「え?」

ルフィが慌てて、肘で私の脇腹をつつく。
私は小さく唸ったあと、ノートに目を走らせた。

「ま、まるやき」
「丸焼き!?」
「う、うん。お肉の丸焼き」
「翡翠ちゃんのリクエストにしちゃ、珍しいな」

首を傾げるサンジに、愛想笑いを返していると、ルフィがノートに何か書き足した。
そして文字とサンジを交互に指差し、そわそわと躰を揺らす。

仕方なく、視線をノートに落とした。

『でけェやつ』

ルフィの期待に満ちた視線に耐え切れず、私はしぶしぶ顔を上げた。その瞬間、サンジと目が会ってしまう。

「どうした?翡翠ちゃん」
「え、あの…でけェやつ」
「ん?ああ、丸焼きのでけェやつ…って、翡翠ちゃんに何言わせとんじゃ、コラァ!」

投げつけられた空き瓶を額にうけ、ルフィが椅子から転げ落ちた。

「あぶねェじゃねェか!」
「ゴムのくせに何言ってやがる。だいたい丸焼き出来る肉なんか、この船に…」

細い色紙の輪を繋いでいたチョッパーが、何かを感じたのか、カウンターの方を振り向いた。
同時に、すぅっと青くなると、

「お、おれ不味いぞ!ロ、ロビーン」

スツールに座るロビンの膝に飛び付き、涙目でサンジを見上げた。

「じょ、冗談だろ、サンジ?」
「おれは何も言ってねェ。…チキンはまだ、丸のままのヤツがあったか」

チョッパーが額の汗を拭って息を吐くと、ロビンがクスクス笑う。
サンジは鍋を火にかけ、冷蔵庫へ向かった。

「完成だ!見ろ、このスーパーな出来!!」

頭上に大きな板を掲げたフランキーが、いきなり大声を上げた。思わず全員で、フランキーを見つめてしまう。

正方形の色紙を、ハサミで縦に4つに切っていたルフィが、不機嫌そうに唇を尖らせた。

「うるせェぞ、フランキー」
「いや、麦わら。文句はこの出来を見てから言え」

私とルフィの目の前に、板が差し出された。近すぎて、何があるのかまったく見えない。
椅子からおりて後ろに下がり、距離をあけた。

「H・A・P・P・Y B・I・R・T・H・D・A・Y?別に普通じゃない?」
「何がすげェんだ?」

ガラスの筒が、うねうねと文字を描く板を見ながら、私とルフィは腕を組んで首を傾げた。
ロビンとサンジ、チョッパーも、不思議そうな顔でこちらを見つめている。

フランキーはニヤリと笑うと、板を手に持ったまま振り返った。

「おい、ウソップ」
「よっしゃ」

立ち上がったウソップの手にある四角い箱は、フランキーが持つ板と細い線で繋がっている。

ウソップが、箱についた細いハンドルを勢いよく回し始めた。
しばらくすると、ギューンという低い唸りが、箱の中から聞こえてくる。

顔を歪めながらも、ウソップがハンドルを回し続けていると、その音がだんだん大きくなってきた。

「あ!」
「光ってんぞ。スゲーな!」

文字を描くガラスの筒が、やわらかい光を放ち始めた。ウソップの顔が、真っ赤になっている。

「光ってるけど、よくわかんねェな」

慌ててやってきたチョッパーが、蹄で瞼を持ち上げながら目をこらす。
その隣のロビンが、微笑みながら胸の前で手をクロスさせると、部屋が真っ暗になった。

灯りが鮮明になると、みんなの口から新たな歓声が漏れる。

フランキーが板の裏を触るたび、ガラス管の中でオレンジの光が一文字ずつ点滅したり、右から左へ流れたりと様々な変化を見せた。

「おー」
「ヨホホ。これはキレイですね」

文字に顔を近づけるブルックの顔が、オレンジの光に照り輝く。
つい遊園地のホラーハウスを思い出してから、申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。

「おい、そ、そろそろいいだろ、フランキー」

ウソップが、息も絶え絶えといった様子で言葉を絞り出すと、その後すぐに、箱の唸りが弱まり始める。

「あ。消えるぞ」
「消したら見えねェぞ」

唸りが止まり、ガラスの筒の輝きも消えたところで、また灯りがついた。
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