S×S【1】 | ナノ
White lie

沈みかける太陽を背に、アクアリウムのドアを開けた。
水槽の裏通路を通り、エネルギールームのハシゴを下って、目指すのはウソップ工場。

「ウソップ」
「んー?」
「暗くなってきたよ。そろそろ切り上げたら?」

灯りをつけていても、次第に暗くなってきた部屋には、あぐらをかいて物作りに打ち込む背中。
手に持った器械に顔を近づけ、中を覗きこみながら、ウソップは呟くように答えた。

「いや、もうちょっとで、何とかなりそうなんだよなー」
「朝からずっとじゃない。根つめすぎるの、良くないよ」

次にかえってきたのは、気のない唸り声。
私は、大げさなため息をついてみせてから、ウソップの側に歩み寄った。

ネジを弄るドライバーの動きが止まるのを待って、私は口を開く。

「今日、ウソップ誕生日だよね」
「あ?そういやそうだな」
「おめでとう」
「おう」

こちらに意識を向けないまま、ネジの具合を確かめているウソップに、さらに話しかけた。

「サンジが、ウソップの好きなもの、作ってくれるって」
「お、ホントか?翡翠」
「ううん。嘘」

嬉しそうに私を見上げたウソップの口が、への字に曲がった。

「つまんねェ嘘だな、翡翠」
「エイプリルフールだから、サービスしたのに」

小さく首を傾げて笑いかけたけど、ウソップは興味を失ったように、手元に視線を落とした。
慌てて、さらに言葉を続ける。

「でも、ウソップが欲しがってたもの、明日みんなで買いに行こうって」
「どうせ、それも嘘だろ」
「スゴい!なんでわかるの?」

大仰に声を上げてはしゃいでみたけど、ウソップはただ小さく息をついただけ。
顔もあげてくれない。

私はテンションを戻して、もう一度、ウソップに話しかけた。

「ウソップ、もう切り上げようよ。で、キッチンに行こう」
「まだいいだろ。途中なんだ」
「みんな待ってるんだよ」

ウソップが、怪訝そうに私を見上げた。

「それも嘘か?」
「違うよ。もう、嘘はおしまい。だってね」

動きの止まったウソップの二の腕に、そっと手を添えた。
立ち上がるよう促したけれど、ウソップは拗ねたように唇を結んで、微動だにしない。

ゴメンと謝ってから、私は、

「ホントは、ウソップの好きな食べもの、もう作ってあるし、プレゼントもちゃんと用意してあるんだ」

こっちを見上げたまま、固まっているウソップに微笑みかけ、今度は強引に腕をひいた。

「行こ。主役がこないと、お誕生会始められないんだから」


《FIN》

2009.04.01
Written by Moco
(宮叉 乃子)

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