沈みかける太陽を背に、アクアリウムのドアを開けた。
水槽の裏通路を通り、エネルギールームのハシゴを下って、目指すのはウソップ工場。
「ウソップ」
「んー?」
「暗くなってきたよ。そろそろ切り上げたら?」
灯りをつけていても、次第に暗くなってきた部屋には、あぐらをかいて物作りに打ち込む背中。
手に持った器械に顔を近づけ、中を覗きこみながら、ウソップは呟くように答えた。
「いや、もうちょっとで、何とかなりそうなんだよなー」
「朝からずっとじゃない。根つめすぎるの、良くないよ」
次にかえってきたのは、気のない唸り声。
私は、大げさなため息をついてみせてから、ウソップの側に歩み寄った。
ネジを弄るドライバーの動きが止まるのを待って、私は口を開く。
「今日、ウソップ誕生日だよね」
「あ?そういやそうだな」
「おめでとう」
「おう」
こちらに意識を向けないまま、ネジの具合を確かめているウソップに、さらに話しかけた。
「サンジが、ウソップの好きなもの、作ってくれるって」
「お、ホントか?翡翠」
「ううん。嘘」
嬉しそうに私を見上げたウソップの口が、への字に曲がった。
「つまんねェ嘘だな、翡翠」
「エイプリルフールだから、サービスしたのに」
小さく首を傾げて笑いかけたけど、ウソップは興味を失ったように、手元に視線を落とした。
慌てて、さらに言葉を続ける。
「でも、ウソップが欲しがってたもの、明日みんなで買いに行こうって」
「どうせ、それも嘘だろ」
「スゴい!なんでわかるの?」
大仰に声を上げてはしゃいでみたけど、ウソップはただ小さく息をついただけ。
顔もあげてくれない。
私はテンションを戻して、もう一度、ウソップに話しかけた。
「ウソップ、もう切り上げようよ。で、キッチンに行こう」
「まだいいだろ。途中なんだ」
「みんな待ってるんだよ」
ウソップが、怪訝そうに私を見上げた。
「それも嘘か?」
「違うよ。もう、嘘はおしまい。だってね」
動きの止まったウソップの二の腕に、そっと手を添えた。
立ち上がるよう促したけれど、ウソップは拗ねたように唇を結んで、微動だにしない。
ゴメンと謝ってから、私は、
「ホントは、ウソップの好きな食べもの、もう作ってあるし、プレゼントもちゃんと用意してあるんだ」
こっちを見上げたまま、固まっているウソップに微笑みかけ、今度は強引に腕をひいた。
「行こ。主役がこないと、お誕生会始められないんだから」
《FIN》
2009.04.01
Written by Moco
(宮叉 乃子)