S×S【1】 | ナノ
至上の甘露

「『ほろ苦抹茶』と『ほの甘ショコラ』2つの味をご用意しておりますが、マダモアゼル?」

飲み物を貰いにキッチンに行くと、丁度おやつの時間だったらしく、サンジが2種類のケーキを指差しながらそう言った。

全面に薄く削ったチョコがまぶされたショコラケーキと、生クリームの上に抹茶パウダーがうっすらとかかる抹茶ケーキ。

「うわっ、おいしそう。迷うなぁ…」
「翡翠ちゃん、なんなら「どっちも」でもいいんだぜ?」
「うーん…どうしよ。…ねぇ、なんで今日は、おやつが2種類あるの?豪華版だね」

そう尋ねると、サンジが「どんよりを表情の全面に出してみました」とでもいうような、なんとも微妙な顔になった。

「ど、どうしたの?サンジ」
「…今日はマリモの誕生日なんだと。ケーキ焼いてやれって、ナミさんが」

ゆっくりと首を振りながら、サンジは続けて、

「こんなしょうもない日は一年通しても他にねぇってのに、ナミさんは優し過ぎるぜ」

ひとつ溜め息をついた後で、サンジがナイフを手に取り、ケーキを切り分けはじめた。
抹茶ケーキに入れたナイフに、クリームと緑色のスポンジの欠片が残る。

「あ、でも。だったらこんな食べ方していいの!?」
「ん?」

ひとすじ切っては、ナイフを乾いた布巾で拭く。
丁寧にその作業を繰り返しながら、サンジが不思議そうに私を見た。

「お誕生日なんでしょ?夕飯の時とかに部屋を暗くして、ロウソク立ててさ。皆でハッピーバースデー歌って、ゾロがロウソクをふーって…」
「翡翠ちゃん…」

切り終えた抹茶ケーキを横によけて、ショコラケーキを引き寄せながら、サンジが呆れた顔になった。

「アイツがおとなしく、そうされてると思う?」
「…う、うーん」

サンジがナイフを刺す度、周囲の薄いショコラがふわふわ動く。
私は、ケーキに刺さるロウソクにふーっと息を吹きかけるゾロの姿を、一生懸命想像した。

「仮にあのマリモが、俺たちのハッピーバースデーを聞いた後、ロウソクを吹き消したとして、だ」

サンジが、切り終えたケーキをひと切れ、ナイフで器用にすくいあげる。
断面から覗く赤い果肉は多分、ラズベリー。

左手に持つお皿へケーキを運びながら、サンジは私を探るような眼差しで見つめた。

「翡翠ちゃんはそれ……見てェ?」

言葉の終わりと同時に、お皿の上にケーキが乗って。
私はふわっと弾んだショコラを見ながら、答えた。

「微妙」

《至上の甘露》

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