「『ほろ苦抹茶』と『ほの甘ショコラ』2つの味をご用意しておりますが、マダモアゼル?」
飲み物を貰いにキッチンに行くと、丁度おやつの時間だったらしく、サンジが2種類のケーキを指差しながらそう言った。
全面に薄く削ったチョコがまぶされたショコラケーキと、生クリームの上に抹茶パウダーがうっすらとかかる抹茶ケーキ。
「うわっ、おいしそう。迷うなぁ…」
「翡翠ちゃん、なんなら「どっちも」でもいいんだぜ?」
「うーん…どうしよ。…ねぇ、なんで今日は、おやつが2種類あるの?豪華版だね」
そう尋ねると、サンジが「どんよりを表情の全面に出してみました」とでもいうような、なんとも微妙な顔になった。
「ど、どうしたの?サンジ」
「…今日はマリモの誕生日なんだと。ケーキ焼いてやれって、ナミさんが」
ゆっくりと首を振りながら、サンジは続けて、
「こんなしょうもない日は一年通しても他にねぇってのに、ナミさんは優し過ぎるぜ」
ひとつ溜め息をついた後で、サンジがナイフを手に取り、ケーキを切り分けはじめた。
抹茶ケーキに入れたナイフに、クリームと緑色のスポンジの欠片が残る。
「あ、でも。だったらこんな食べ方していいの!?」
「ん?」
ひとすじ切っては、ナイフを乾いた布巾で拭く。
丁寧にその作業を繰り返しながら、サンジが不思議そうに私を見た。
「お誕生日なんでしょ?夕飯の時とかに部屋を暗くして、ロウソク立ててさ。皆でハッピーバースデー歌って、ゾロがロウソクをふーって…」
「翡翠ちゃん…」
切り終えた抹茶ケーキを横によけて、ショコラケーキを引き寄せながら、サンジが呆れた顔になった。
「アイツがおとなしく、そうされてると思う?」
「…う、うーん」
サンジがナイフを刺す度、周囲の薄いショコラがふわふわ動く。
私は、ケーキに刺さるロウソクにふーっと息を吹きかけるゾロの姿を、一生懸命想像した。
「仮にあのマリモが、俺たちのハッピーバースデーを聞いた後、ロウソクを吹き消したとして、だ」
サンジが、切り終えたケーキをひと切れ、ナイフで器用にすくいあげる。
断面から覗く赤い果肉は多分、ラズベリー。
左手に持つお皿へケーキを運びながら、サンジは私を探るような眼差しで見つめた。
「翡翠ちゃんはそれ……見てェ?」
言葉の終わりと同時に、お皿の上にケーキが乗って。
私はふわっと弾んだショコラを見ながら、答えた。
「微妙」
《至上の甘露》