S×S【1】 | ナノ
波の始まるところ

「ゾロ、起きて?」
「…んぁ?」

見下ろす先で、木に背中を預けたゾロが、目を開け。
大きな伸びをしてから、頭をガリガリと掻いた。

「終わったのか?翡翠」
「不作でした」

ゾロの問いに、私は、帽子を押さえながらしゃがんで。
片手でバケツを傾け、半分ほど入った二枚貝を見せる。

「お前にしちゃ、珍しいな」
「潮の具合いもあるから。見切り、つけたの」

強い風に、倒れそうになった私の腕を掴んだゾロは、そのまま立ち上がると。

私を引き起こしながら、言った。

「そろそろ戻るか、翡翠」

《ナミノハジマルトコロ》


少し前に、ゾロの背中を見て。
波打ち際を、歩く。

濡れた砂が、キュッと沈みながら足跡を象り、次には打ち寄せる波が、それを消してゆく。

私は、バケツを持つゾロの背中に、いつかのあの日を思い出した。

「ゾロ」
「あ?」
「空が、高いね」

ただ、空は晴れていて。
そして、貝の量が違って。
勿論、場所も変わって。

なにより今の私が。
ゾロを見て浮かべるのは。

涙ではなく。

「…秋だからな」

微笑み。

また、風が吹いて。
私は、飛ばされないよう、帽子を押さえた。

風に煽られた波が、泡立つようにうねって。
静かな浜辺に、波音を響かせる。

波が足を濡らすのを感じながら、私は口を開いた。

「ゾロ。波が始まる所って、見たことある?」
「?」
「グランドラインを航海してきて、見つけた事、ある?」

ゾロは立ち止まり、振り向いて。
私をしばらく、じっと見つめてから、

「ねぇな」

そう言って少し笑うと。
また、歩き出した。

「…そっか」

私は、足の甲に被り始めた波を。
少し、跳ねるようにしながら、踏みつけた。

──ぱしゃん。
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