「ゾロ、起きて?」
「…んぁ?」
見下ろす先で、木に背中を預けたゾロが、目を開け。
大きな伸びをしてから、頭をガリガリと掻いた。
「終わったのか?翡翠」
「不作でした」
ゾロの問いに、私は、帽子を押さえながらしゃがんで。
片手でバケツを傾け、半分ほど入った二枚貝を見せる。
「お前にしちゃ、珍しいな」
「潮の具合いもあるから。見切り、つけたの」
強い風に、倒れそうになった私の腕を掴んだゾロは、そのまま立ち上がると。
私を引き起こしながら、言った。
「そろそろ戻るか、翡翠」
《ナミノハジマルトコロ》
少し前に、ゾロの背中を見て。
波打ち際を、歩く。
濡れた砂が、キュッと沈みながら足跡を象り、次には打ち寄せる波が、それを消してゆく。
私は、バケツを持つゾロの背中に、いつかのあの日を思い出した。
「ゾロ」
「あ?」
「空が、高いね」
ただ、空は晴れていて。
そして、貝の量が違って。
勿論、場所も変わって。
なにより今の私が。
ゾロを見て浮かべるのは。
涙ではなく。
「…秋だからな」
微笑み。
また、風が吹いて。
私は、飛ばされないよう、帽子を押さえた。
風に煽られた波が、泡立つようにうねって。
静かな浜辺に、波音を響かせる。
波が足を濡らすのを感じながら、私は口を開いた。
「ゾロ。波が始まる所って、見たことある?」
「?」
「グランドラインを航海してきて、見つけた事、ある?」
ゾロは立ち止まり、振り向いて。
私をしばらく、じっと見つめてから、
「ねぇな」
そう言って少し笑うと。
また、歩き出した。
「…そっか」
私は、足の甲に被り始めた波を。
少し、跳ねるようにしながら、踏みつけた。
──ぱしゃん。