S×S【1】 | ナノ
HAPPY BIRTHDAY

言葉編

晴れた日の。
夜から朝に変わる瞬間が、何度見ても大好き。

急に水平線が白く光って、次の瞬間、世界が明るくなる。

今日も快晴。
冷たく、澄んだ空気の中。
年に一度の特別な朝が、今、明けようとしている。

「翡翠」

人型のチョッパーが、展望室に顔を覗かせ。
ちょこちょこと手を振った。

「早起きさせて、ゴメンね」
「いいんだ。する事、たくさんあるから」

人獣型になって、リュックから乳鉢や薬草を取り出し、床に並べながら。
チョッパーは、無邪気に笑った。

「朝ごはんまで、これ食べててよ」
「いーのかー、翡翠」

夜食代わりに貰っていたクッキーを差し出すと、チョッパーの瞳がキラキラ輝く。

「ロイヤルミルクティで良ければ、飲み物も余ってるから」

ポットを指差しそう言うと、チョッパーはクッキーをサクサク噛みながら頷いた。

「ありがとな」
「私こそ。見張り、早目に代わって貰うんだし」

HAPPY BIRTHDAY(言葉編)


「サンジ、おはよっ」

ストールを躯に巻き、肌寒さを堪えながら甲板を駆け抜け、キッチンに飛び込む。
ノブに手をかけた瞬間から、満面の笑顔を浮かべて。

「おはよう、翡翠ちゃん」

コンコンとカッティングボードを打つ包丁の音が止まり、煙草をくわえたままのサンジが笑う。

満面の笑顔を浮かべた筈なのに、サンジの顔を見たらもっと、もっと笑いたくて。
とろけてしまいたいような気持ちになる。

笑み崩れながら、ふわふわとサンジの側に近づき、シャツの裾を少し引いた。

目を細め、少し首を傾げながら、サンジが少し腰をかがめる。

「あ、あのね」

見張りを早目に代わって貰ってまで、どうしても一番に伝えたかった事を、言葉にする。

「サンジ。お誕生日、おめでとう」
「おー…、ありがとう」
「私、一番だよね。おめでとうっていうの」

サンジは一瞬、天井を見つめて。
それから、ニカッと笑って頷いた。

「良かった」

笑ってくれるだけで、こんなに幸せ。

灰皿に灰を落とし、再び煙草をくわえたサンジが、私の前髪をかきあげるように撫でて、

「…ありがとな、翡翠ちゃん」
「うん」

親指が額を撫でる感触が、あまりに心地好くて。
猫なら喉を鳴らすところだけど。

私はただクスクスと、笑い続けるだけ。

「翡翠ちゃん」

差し出されたマグカップを受け取ると、中にはキューブ状のチョコが幾つか入っていて。

「見張り、疲れたろ」

サンジがそう言いながら、ミルクパンの中の湯気をあげる牛乳を注ぎ、スプーンでひと混ぜすると。
美味しそうなホットチョコレートが出来上がった。

手が、ほんわりと温かくなる。

「美味しそう」

少し表面を舐めると、丁度好みの熱さで。
両手でマグカップを支えて、半分ほどを飲み干した。

「あれ?」
「ん?」

朝食の準備に戻っていたサンジが、不思議そうに私を見る。

手の中の、私専用のマグカップを見つめ。
私好みの温度のホットチョコレートを、もう一口飲んで。

「サンジ。私が来るって、どうしてわかったの?」



『今日はえらく早ェな?チョッパー』
『翡翠と見張り交代するんだ。調合の道具、取りに来た』
『交代の時間は、まだ先じゃねェのか?』
『サンジの誕生日に、一番におめでとうって言いたいから、代わってくれって』
『お』
『サンジ、誕生日なんだなー。おめでとう。……うわあっ、サンジ。その顔、気持ち悪ィぞ!』



「そうだな」

煙草を押し潰し、サンジが笑う。

「愛の力って事に、しとこうか」


2008.03.02
HAPPY BIRTHDAY(言葉編)
Written by Moco
(宮叉 乃子)

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