贈り物編
「誕生日おめでとう、サンジ」
「ん、サンキュ。翡翠ちゃん」
長く、深いものも、勿論好きだけど。
一瞬触れあうだけの口づけも、私は大好き。
「…さっき『島が見えた』って、言ってたね」
「だな」
椅子に掛けるサンジの脚に、曲げた片足を乗せて。
筋肉の固さを脛で味わいながら、両手を首に回した。
「出かけようよ、ダメ?」
耳許にそう囁いてから、瞳を覗き込んで微笑むと、
「まさか」
輪郭の形をなぞる掌に頬を押し付けると、サンジの唇が近付いてきて。
私の上唇を食むように味わってから、離れてゆく。
「あのね、サンジ」
「ん、どうした?翡翠ちゃん」
額を額に押し付け、唇を尖らせると。
私の唇をちろりと舐めて、サンジは指で口許を探った。
「私の口、煙草じゃないんですけど」
「どっちも、無類の嗜好品ってことで」
「…バカ」
その嗜好品を、もう一度存分に味わって貰ったところで。
私は甘い息を吐き、先刻言いかけていたことを、口にする。
「プレゼント、何がいい?」
爪先に引っ掛けていたオープントゥのパンプスが。
次のキスで、床に落ちた。
HAPPY BIRTHDAY(贈り物編)
「翡翠ちゃんがくれるんなら、なんでも」
離した唇でそう言って、サンジは楽しそうに笑う。
意に染まないその答えに、また口を尖らせた私は、
「それじゃわかんない」
そう言いながら、サンジのネクタイに手をかけた。
「ネクタイにする?」
「ん?翡翠ちゃんが、そうしたいなら」
「そうじゃないの!サンジの欲しいもの、言って」
ムッとしたついでに、ネクタイをほどいて。
くしゃくしゃに丸めて、放り投げた。
「あれ?おれの欲しいもの、わかっ」
ニヤニヤしながら言葉を紡ぐサンジの額を、軽くはたいて、
「いっつも持ってて、私のこと思い出すもの!そういうので、何が欲しいのか言って」
私の言葉を、ただ面白そうに聞いている頬を、軽くつまむと。
サンジの指が私の鼻を押した。
「翡翠ちゃんが選んでよ」
「選ぶのは一緒に行くの。…ネクタイいらないなら、アクセとか?」
「翡翠ちゃんが、そうしたいなら」
さっきと同じセリフに焦れて、シャツ越しの肩を数度叩いた。
「じゃ、おさいふ!」
「翡翠ちゃんが、そう…」
「もうっ!」
表情がくしゃくしゃになるのが、自分でもわかる。
急にサンジが焦った顔になるのを見て、表情は崩さないまま。
心の中でちょっぴり、舌を出した。
「何にする?」
ぎゅっと首にかじりついて、もう一度そう聞くと、
「んー、だな…」
強く私を抱き締めたあと、脇腹のあたりに手を添え、少し距離を取ってから、
「おれは、翡翠ちゃんが選んでくれたものが、ホントに欲し…。いや…」
右の瞳がくるめき、サンジはニカッと笑うと、
「おれへのプレゼントを選んでる翡翠ちゃんが、見てェな」
「は?」
「一緒に店に行くだろ?そこで、翡翠ちゃんが『サンジ、これが好きかな』『こっちの方が好きかな』って悩んでるとこが、見てェ」
煙草を取り出し、笑う顔は無邪気だけれど。
「おれの事で頭が一杯な翡翠ちゃんが、一番欲しい」
煙草を口許に運びながら、先にこっちをもう一回、と私に触れた唇を。
こんなに憎らしく。
こんなに愛しく思ったことは、ない気がする。
「サンジってホント、バカ」
煙草に火をつけたあとのマッチに息を吹き掛け、ニヤリと笑ったサンジの耳に、唇を寄せた。
「そんな私。いつだって、見てるでしょ」
《FIN》
2008.03.02
HAPPY BIRTHDAY(贈り物編)
Written by Moco
(宮叉 乃子)