S×S【1】 | ナノ
"Only You" 1

"Only You"

『えー、翡翠。おれたちの事、嫌いなのか?』

そう言ったチョッパーの邪気のない眼差しに、私は返す言葉に詰まった。

『いや…嫌いなんかじゃ…』
『好きならチョコをあげる日なんだろ、今日……』
『や、そうなんだけど。意味が…その…』

でも、あの見上げる瞳に抗うなんて、無理なことだと思うの。


「あの瞳は裏切れないのよ」
「あんたはチョッパーに甘いのよ、翡翠。どうせウソップあたりの差し金でしょ、全部」

事情を語り終えた私を呆れたように見つめ、ナミはストローに口をつけた。
後ろには、箱や袋が高く積み上げられている。

「それで、私たちを探しにきたの?」

シナモンスティックをソーサーの端に置き、ロビンがカップに手をかけた。

「だって、チョッパーたちにはあげるつもりなかったから。もう1000ベリーしか残ってないし…。三人で出しあえば、五個買うにしても、少しはいいのが買えるかなぁって」

一人で船に戻った私は、チョッパーの『純真無垢な瞳攻撃』に負け。
カフェで買い物疲れを癒していた、ナミとロビンを探す羽目になったのだった。

「『五個』ね」

ロビンがカプチーノを一口飲んで、フフッと笑い、財布から1000ベリー出してくれた。

「なるべく大きいのを、選んであげてね」
「ありがとう、ロビン」
「ロビンは翡翠に甘いわ。…はい、これでキリがいいでしょ」

ナミが溜め息混じりに、テーブルの上に500ベリーを滑らせた。

「ありがとう、ナミ!」
「なるべく高く見えるやつにしてね。…三倍返しが相場だから」

最後のワンフレーズを、やけにハッキリ口にしながら、ナミがウインクする。
その右手は、親指と人指し指で丸を作ってて。

あ、あれ?
あげないほうが、チョッパーの為なのかも。

《Valentine Day "Only You"》


「あー…はいはい」

一足先に夕飯を食べ終えたルフィとウソップ、そしてチョッパーが、横で両手を差し出してニッカリ笑い。
私はフォークとナイフを皿の上に置いて、ガサガサと音をたてながら紙袋を探った。

「はい」

『あの三人には質より量』と呟きながら探した、大きなチョコを渡すと、ルフィたちは受取りながら深々と頭を下げた。

「ありがとな、翡翠」
「三人からだからね」
「おう。ありがとな、ナミ、ロビン」

ベリベリと包装を剥がす音をBGMに、私はフォークを再び手にした。

「あ、サンジも今いる?」

食べ物を口に入れようとした瞬間、サンジと目があって。
少し焦ったような表情の新鮮さに、笑いながら私は尋ねた。

「…いや、食い終わってからで」
「ちゃんと皆の分、あるからね」

サンジと笑顔を交してから、私はフォークを口へと運んだ。

「ゾロ、どこいくんだ?」

大きなハート型にくっきり歯形を刻んでから、チョッパーが不思議そうに尋ねた。

「寝る」

一言だけ残して、緑の頭がドアの向こうに消え。
続いて、バタリと扉が閉まる音がキッチンに響いた。

「あら、ご機嫌斜めかしら?」

ロビンがクスクス笑うのを聞きながら、私は立ち上がる。
チョコを一つ取り出し、残りの紙袋をナミに押し付けてから、

「サンジ、ごちそうさま。チョコはナミから貰ってね。フランキーもね」

キッチンのドアから夜の闇の中へ、滑るように飛び出した。



「チョコ、いらない?」
「……」

女部屋の上、船首の傍らで海を眺めるゾロに近付き。
そのポーズを真似るようにして、隣に並んだ。

片手を柵に置き、反対の手でチョコの箱を見せ付けるように振ると、赤のリボンがヒラヒラと揺れる。

見つめる先のゾロの瞳は、真っ直ぐ海に向けられたまま、月の光で濡れたように光った。
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