短編・中篇 | ナノ
Bitter-sweet Heaven

いつの間にか、降りだしていた雪に道は覆われ。
街灯で、ぽっかりと白く光る。

油断するとコートの肩は白に塗り替えられ、顔に当たる雪は体温を奪いながら溶け去ってゆく。

私は深夜、家路を急ぐ。

心を半分置いたまま。
温もりを打ち捨てて。
愛しさを振り切って。

部屋へと続くエントランスの前で、来た道を振り返った。

真っ直ぐにルッチの部屋から続く、私の足跡以外にはなにもなく。
誰もいない道に、静かに雪が降り積もって行くだけ。

冬の街の2ブロック。
ほんの数百メートル。

夜の黒を舞う、白い雪片。

ぎゅうと締め付けられた胸に、拳を押し当て。
私は押し寄せる寂しさを、懸命にこらえる。

ルッチ。
私はあなたの遠さに。

心の底から、脅えている。




《Bitter-sweet Heaven》

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