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【Flowers:月下美人 -魚人島へ@皆揃ったサニー号】
61巻ラストな時間軸

「えーっ、年に1度じゃないの!?」

ルフィが女ヶ島の人たちに貰ったというお弁当を食べながら、私は素っ頓狂な声をあげてしまった。
目の前にはお弁当と、シャボンディ諸島の『異国珍品展示会』で貰ったパンフレット、そして広げた花の図鑑。

「栄養や温度の条件が揃えば年に何度か咲くこともあるみたい」

図鑑の『月下美人』の項を指しながら、ロビンが穏やかに告げる。
私は憤り任せに、またつまらないセリフを吐く。

「あの手長族め!たばかったな!」
「たばかったって…この2年、どこで何して覚えてきたの」

呆れた様子のナミが冷静につっこんでくる。丁度大きな肉を頬張ったところだった私は、すぐに返事が出来ず、もぐもぐと口を動かした。
私の様子にナミがため息をつく。

「すごく美味しいけど『女ヶ島弁当』のわりに、食べ物のサイズが大きめなのよね」
「ルフィにあわせてあるんじゃない?これ、珍しい果物ね」
「あっ、デザートも色々ある、嬉しい!ちょっと見てこようっと」

ナミとロビンは食べ物を一口サイズにしながら口に運んでいる。
次からちゃんとそうしよう、と思いながら、私は懸命に肉を噛む。
ナミがデザートを取りに立ち上がったところで、私はようやく口の中のものを飲み込んだ。
右側に座るゾロの肩を叩き、憤りを共有すべく話しかける。

「ゾロ、さっきの聞いた?月下美人って年に何回か咲くらしいよ!手長族ウソつきだよ!」
「イエティが実在すると思ってたのか?それに比べりゃましなウソだろ」
「あの人たちはウソつきなのではなく、商売上手なのです」

お弁当をかきこみながら、ブルックがにゅっと話に割り込んでくる。

「あとイエティはいるかいないかわからない、それがロマンなのです!!」
「いねェだろ」
「いや、いるな」

鼻に詰め物をしたサンジが、私とロビンの間に割り込んでくる。
甘い卵焼きを食べようとしていたチョッパーが、慌てたように立ち上がった。

「サンジ、そこに座って平気か?また鼻血でたらどうするんだ」
「おれはここにいる!出たら出たで本望だ!」
「キッパリ言ったー!でも鼻血それ以上はダメだぞ」

サンジの様子を盗み見ていたけど、とりあえず鼻血をだす気配はない。背中ごしにロビンに話しかけてみた。

「サンジ大丈夫かな?」
「横だと、あまり視界に入らないんじゃないかしら?」
「ありそう!ロビン頭いい」

デザートの器を確認していたナミが、チョッパーの左側に腰を下ろそうとしている。
サンジの位置からは丁度正面だ、まずい。

「サンジ、テーブルのここらへん見てたらいいよ」

テーブルの一部を指でぐるぐる差しながら、私は慌てて言葉を紡ぐ。

「ロビンがお弁当取り分けてくれるって。サンジの料理も楽しみだったけど、これもすごく美味しいよ」

ロビンが手を咲かせて、新しいお皿に料理を素早く乗せてゆく。
料理を受け取ったサンジの様子をハラハラと見守ったけど、鼻血は出なかったので、チョッパーと揃って胸を撫で下ろした。

「そういえばお刺身作って貰おうって、ゾロと話してたんだ──ゾロ、魚釣れなかったの?」
「…まぁな」
「『魚釣り』に行ってねェんだ、こいつは」

サンジの指が私の顔の前を通って、ゾロを差す。

「船を間違いやがったんだと」
「間違う?魚屋さんの近くの海には、漁船とおっきいガレオン船しか見えなかったよ」
「その『ガレオン船』が真っ二つになって上がってきたとこに、こいつがいたんだ」

私は愕然とする。全然違うものなのに──。
ゆっくりとゾロの方に目を向けると、他人事のような顔をして弁当をかきこむ姿が目に入った。

「迷わないように魚屋さんまで送ったのに、なんで間違ったの?…私、どこまで見てなきゃいけなかったの…」
「最終的には問題なかったろ」
「最終的じゃないとこに、あるはずない問題があったとこが問題なんでしょ!」
「あ、そっちを見ちゃ」

ロビンの声に慌てて振り向くと、サンジがナミの方に視線を向けようとしていた。

「フランキー、さっきのやってくれよ!ルフィまだ見てねェだろ?」
「おっ、なんかすげェのか?」

ウソップの声で、ゾロの向こう側に座っていたフランキーが、テーブルに身を乗り出す。長話の後で一気に飲み干していた酒の空き瓶が甲板の上を転がる音がした。

フランキーの躰に遮られ、ナミの姿がサンジの目線から隠される。

「鼻を押すんだ、スゲーんだぞ!ルフィ!!」
「さっきやってたろ、ロボみたいに頼む」

チョッパーがウキウキと身を乗り出すと、ウソップが顔の前で片手を立ててフランキーを拝む。
ルフィが目を輝かせながら、慌てて肉を口の中に押し込んだ。

「サンビョウイジョウオシテクダサイ」
「やったー!ロボだー!!」
「スゲーだろ、スゲーだろ!ルフィ!!」
「うぉー!押すぞー!!」

フランキーに群がるようにしてはしゃぐ3人が、悲鳴のような歓声のような声をあげる。
もぐもぐとお弁当を食べてる私たちとの間に生まれる温度差。フランキーの向こうのナミも、同じ感じだろうな。
ウソップとチョッパーの間にいるブルックのテンションは、表情からは全く読めない。

「あ、ロビンの持ってるやつ美味しそう!」

ロビンの手には、くりぬいたパンにハムやチーズを詰めて、手頃な薄さに切ったおつまみ。ワインを飲みながら食べているのが美味しそうで、私はキョロキョロとお弁当を見回した。

「あった!」
「ん?」
「あっ、サンジ…」

パンを掴んだ手が、サンジの伸ばした手と丁度ぶつかってしまった。サンジの動きがピシッと止まってしまう。
フランキーを見てはしゃいでいたチョッパーが、青くなりながらこっちに走ってきた。

「サンジ、鼻血ダメだぞ。こらえろ!」
「気のせい、気のせい!触ってないよ、私は触ってないからね、サンジ!」
「…い」

チョッパーと私のテンションとは逆に、サンジはうつむいて何かをぶつぶつと呟いている。
ロビンを加えた3人で、おそるおそる顔を覗きこんだ。

「…い、…かい、…柔らかい。レディだ…本物だ…」
「泣いてるー!!いや、鼻血じゃなくて良かった」
「感情が違う方に出たのね」
「ほんと、サンジどうしちゃったの?2年の間に何があったの?」

軽い気持ちで聞いただけだったのに、サンジはがっくりと肩を落とし、どんよりした空気を漂わせ始める。
思わず肩に置こうとした手を、チョッパーの蹄が妨げた。

「触ったらダメだぞ!何がどう出るかわからないんだ」
「ごめん、チョッパー。サンジもごめんね。もう聞かないから」

両手を上げて『触りません』の意思表示をしながら、私は座ったままじりじりと後ろにさがった。

「…なんかいいリハビリ考えねェとなぁ」

チョッパーが腕組みをしながら独りごちる。ロビンがクスクス笑いながらワインを飲んだ。
背中が何かにぶつかる。

「あ、ごめん。触ってな…」

振り返りながら、つい謝ってしまう。
ぶつかった腕でグラスに酒を注ぎながら、ゾロは呆れたように私を見た。

「ゾロは触っても大丈夫か」
「あのアホと一緒にするんじゃねェ」

そう言い捨てて、注いだお酒を一気にあおる。グラスに注ぐ意味があったのか、私はちょっと考えた。

賑やかなテーブル周りに目をやる。
ロボ自慢のフランキーと、目を輝かせているルフィにウソップ。
いつの間にか寝かせられているサンジと、その口に体温計をさすチョッパー。
つまらない事を言ってナミに蹴飛ばされたらしいブルック、戻ってくるナミのためにスペースをあけるロビン。
見た目もその他も変わったことは沢山ある、変わらないことも沢山ある。冒険の日々がまた始まって、これからも続いてゆく。

ふっと、海が一段階暗くなった。

「今、暗くなったね」
「ああ」
「『月下美人』の小屋とどっちが暗いかな?」
「まだあの小屋の方だろ」

ゾロの腕に背中を預けたまま海を見上げる。ぐっと顎をあげると、ゾロも上を見ているのが視界に入った。
2年ぶりのサニー号の上で一緒に見上げているのが、空ではなく海だなんて不思議な気持ちだ。
魚群がコーティングの上を横切ってゆく。

「──お刺身ないけど」
「ん?」
「この2年、ゾロが何してたか聞かせて」

持ったままだったスタッフドバゲットをかじって、私はゾロに笑いかけた。
腕にもたれるのをやめ、隣に座りなおしながら顔を覗きこむ。

ゾロは動じた様子もなく、箸で肉団子を口に押し込みながら、空いた手で私を指差した。

「その前に言うことがあるだろ」
「え?言うこと!?なに??」

思いあたる節がなく、私は無駄に左右を見回した。もちろん誰かがアドバイスをくれる訳もない。
まさか私の気持──いや、そんな気付いてる訳ない、まさか。
そわそわと落ち着かない様を見せている私を見ながら、ゾロは肉団子を箸でつまんだ。
それから不敵な笑いを浮かべ、答えあわせのように口を開く。

「何番だったのか、早く教えろ」


《The End》
2015/07/06
Written by 宮叉 乃子

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