「…珍しいっすねぇ門田さんが熟睡してるの」
「どうすっかなあ、起こすか?」
「いいよ、あたし待ってるし。」

ゆまっちと渡草さんが服を見繕いたいと言ったから、私たちは少し離れたショッピングセンターに来ていた。目的地に到着したものの、ドタチンが爆睡。多分昨日も仕事が忙しかったんだろう。最近寝てないとか言ってたし。そのくせ私たちの遊びに付き合ってくれるドタチンは重度のお人好しだ。

「じゃあ…悪いけど」
「行ってくるっす!」

行ってらっしゃい、と二人を見送って私は後部座席に戻った。ドタチンの寝顔がミラーに映ってる。悪戯しようかと思ったけど、やめた。
私もちょっとだけうとうとしだす。そのうちに寝てしまった。



「あ、れ…?」

しばらくして私は酷い暑さに目を覚ました。
変な汗が止まらない。ぼうっとした頭をなんとか働かせて考える。多分長時間車の中に居たから暑にやられちゃったんだ。大変、このままじゃ…熱中症になっちゃう。ドタチンにもお水あげなくちゃ、お水…。

ペットボトルを掴もうとして落とした。
やば、頭痛い…

運転席と助手席の間に置かれたペットボトルは助手席の足元の奥に入ってしまった。
あ、と思った時には身体が傾いた。慌てて助手席の背もたれを掴もうとしたのに、手が滑った。

「あ…、」
「かり、さわ…?」

ドタチンの声がしたような気がした。
そして倒れる直前、何かに抱き止められた。


熱い、熱いよ…

何が、こんなに…熱い、の…?



「かりさわ、」
「おい、狩沢」
「狩沢さん!」


「…っえ?」

名前を呼ばれて目を覚ますと、ドタチン、渡草さん、ゆまっちがいっぺんに視界に入った。ゆまっちが「良かったっす〜」と言葉をもらす。あれ?私どうしたんだろ。


「悪かった!クーラーつけてくべきだったな!すまん!」

渡草さんが頭の前で手を合わせてる。
その隣でにやにやしながらゆまっちが口を開いた。

「しっかし驚いたっすよ!」
「へ?」
「買い物終えて出ようと思ったら、いきなり狩沢さんをお姫さまだっこした門田さんが飛び込んで来るんすもん!」
「おま…っ遊馬崎!」

「アニメ一話の阿良々木くんと見間違ったっすよ!螺旋階段の上から狩沢さんが舞い降りて来たのかと!」
「…仕方ねぇだろ…冷やすことしか頭に無かったんだから!」


ドタチンは顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。未だにぼうっとする頭でうっすら考える。そっか、ドタチンが助けてくれたんだ。

ドタチンの服の裾を引っ張ってなんとか口を動かした。

「ありがとう、ね…ドタチン。」
「ああ、」


そうか。あの熱かったものはドタチンの腕だったんだ。ドタチンが私を抱えてくれたんだ。

そう考えたらなんか今までと違う暑さで顔が火照った。あれ…なにこれ?


「おい、狩沢大丈夫か?また顔赤いぞ!?」
「…うん、なんか…熱い…」
「水飲め水!!」
「ありがと、渡草さん…」


ゆまっちだけが楽しそうににこにこしていた。


(走り出せ恋心)






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