「いやあ、豊作だね!」

本を何冊か腕に抱えながら狩沢は満面の笑顔でそう言った。どうやらさっき立ち寄った本屋でいいのが見つかったらしい。同じように遊馬崎も周りに音符を浮かばせるくらいにテンションが上がっている。俺はそんな様子を眺めながら自販機で買った缶コーヒーを口にする。

「あ、狩沢さん。その本いいっすねえ」
「ゆまっち買ってないの?超おすすめだよ!」
「じゃあ読み終わったら貸してくださいっす」
「オーケー。私はそっちの本が気になるなあ」
「読むっすか?」
「うん!」

お互いに買った物を見せ合いながら楽しそうに会話を交わす遊馬崎と狩沢。相変わらずの光景だ。だけどその日常がおもしろくないと感じる俺がいる事に、俺は無意識のうちに眉間のしわが寄る。

(分かっちゃいるんだが…)

二人は根っからのオタクで趣味が合う。二人の会話についていけない時だってしばしばある。それは仕方ない事だ。けれどやっぱり嫌な気持ちになる、そしてそう感じてる自分自身に嫌気がさす。悪循環だ。

「ねえねえ渡草ー、次は××行こうよー」
「ああ?もういいだろ」
「まだ全然足りないっすよ!」
「そうそう!」

はしゃぐ遊馬崎と狩沢に渡草は思いっきり溜め息をつく。俺は俺でぐいっと缶コーヒーを仰ぐ事で零れそうになった溜め息を押し戻した。それでもまだ出そうになるから心の中でついておくとしよう。はあ。

「行こうよー」
「行きましょうよー」
「だああ!今日はもうむり!諦めろ!」
「「ケチー!」」

二人して渡草に抗議の声をあげる姿はまるで駄々をこねる子供のようだ。缶コーヒーを握る力を強くする。べきゃ、と変な音が鳴った。スチール缶だったんだがへこんでしまったみたいだ。あとでゴミ籠に捨てておかなければ。

「ケチじゃねえ!…ったく、お前らはどんだけ二次元が好きなんだよ…」
「愛の領域っす!」
「なくちゃ生きていけないよね!あ、でも」

私は二次元よりもドタチンの方が好きだなあ。

「……………は?」
「ひゅー!熱いっすねえ、お二人さん!」
「えへへ止めてよお、照れるじゃん」

突然のセリフに動揺を隠せない俺を尻目に遊馬崎は口笛を吹いて茶化し、狩沢はそれに満更でもない表情を浮かべて、渡草はもう関係ないとばかりに別の方向を見ている。驚きすぎて体の力が抜けてしまい、手の平から缶コーヒーが滑り落ちる。地面とスチール缶がぶつかる音がして、俺と狩沢の目線が一致した。

「二次元大好きだけど、それよりもドタチンを愛してるからね!」

きらきらと輝く満面の笑顔。俺は柄にもなく顔を赤くなるのを感じて咄嗟に狩沢から目をそらした。ああちくしょう、そんな事言われてうれしくないわけがねえだろ。


(君への溢れんばかりの想いは、多分宇宙も超えると思うよ)






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