誰のことも好きじゃなかった。
 誰のことも愛せなかった。
 私は閉じた生活を送っていた。本と、勉強と、漫画と、好きなものだけの世界で。誰も私の中には入って来ない。そんな世界で、私は生きていた。
 他人と関わるなんてまっぴらだった。関わって馬鹿にされて疎外されるくらいなら、独りの方がマシだと思っていた。
 疎外されてるんじゃない。私から離れてるだけ。だって私は彼らに関心なんてないから。
 そんなポーズ。彼らと行動することに興味がないのは事実だったけど、それでも疎外されることはつらかった。でも、私は決してそれを表には出さなかった。本を読んで、やり過ごした。
 昼休みには教室から抜け出して、他クラスの気の合う友達と昼食を食べる。
 それだけで良かった。それだけで、幸せだった。



 その頃の私の居場所の一つは図書室で、放課後に時間が空いたときは、いつも図書室で本を読んでいた。
 図書室にいたら幸せになれた。ラノベ、近代文学、外国文学、一風変わった新書、ちょっと古めのエンターテインメント……。本の海に溺れていれば周りなんて見えなかったし、余計なことを考えずにいれた。
 そんな、ある日のことだった。
「司馬遼太郎、好きなのか?」
 図書室でいつものように本を読んでいたら、突然声をかけられた。
 顔を上げると、知らない男子生徒が正面の席に座っていた。茶色い髪をオールバックにした、いかつそうな生徒だ。
「好きだよ」
 顔と発言が合っていなくてキョトンとしていると、彼は自分が持っていた本を机に置きながら言った。
「同じ学年、だよな」
 スリッパの色で判断したのだろう。頷きながら彼の手元の本に目を遣って、私は思わず声を上げた。
「綾辻行人!」
 彼が持っていたのは、西尾維新の「ヒトクイマジカル」だった。まさか、と思ってまじまじと顔を見ると、彼は困ったような顔をした。
「意外か?」
「うん」
 いつもの気遣いも忘れ、つい正直に答えてしまう。彼は苦笑した。
「面白いな、お前」
「え? そうかな」
「名前は?」
「……狩沢絵梨華」
「狩沢、か。俺は門田。門田京平だ」
「門田君、か」
「本好きなんだな」
「うん、好き。門田君も好きなんだね。そうは見えないけど」
「よく言われる。喧嘩ばかりしてるみたいだってな」
 自分でも分かってるんだ、と門田君は頭を掻いた。私はそれに噴き出して、本に視線を落とした。



 門田君――ドタチンが加わった私の世界は、だんだんと外に広がって行った。 
 別に、何が変わったというわけじゃない。でも、少しずつ、外と関わるのが苦痛じゃなくなっていったのだ。
 ドタチンには、何でも気兼ねなく話せた。本の話、私が行事を嫌いなこと、そのきっかけ、今気になること……。彼が知っている話も知らない話も、何でも話せた。
 そして、ゆまっちに出逢い、渡草っちに出逢った。私の世界は、少しずつ、他者を受け入れていった。
 でも、私は知っている。初めのきっかけは、私の世界に波紋を起こしたのは、ドタチンだって。
「私、ドタチンに出逢えて良かったよ」
 だから。
「今度は、私がドタチンの世界を変えてあげるね」




私の世界に投石した君





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