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南雲をお呼びでしょうか - 1



出来上がったばかりの本日のカナッペは、香ばしく焼き上がったバケットを土台に、ほどよく厚切りにされたカブの上にクリームチーズをひと絞り。ピンク色のスモークサーモンが花弁のように被さって、ちょこんと添えられたセルフィーユは飾り以上の役割を果たしている。
見るだけでも可愛らしいそれをトレイに乗せ、僕は背筋を伸ばして厨房を出た。


ここ、私立新王学園は全寮制の男子校である。
一部の富豪層しか入園を許されず、数多くの企業が出資し成り立つ学園は使用人まで皆一流だ。
つい昨年設けられた特待生制度により、若干名の一般市民が入園を許されたが、彼らはみな勉学の為に風紀を乱すことなく勤しみ、以前と変わらぬ由緒正しき学園の在り方を、僕は一職場として誇りに思っている。

とはいえ、それもつい先月までの話だ。

先月転入してきた一人の生徒により、新王学園の風紀はわずかひと月のあいだに乱れ、それまで特別クラスを崇めていた親衛隊なる存在も徐々に活動を過激なものへと変え、それまで起こりうるはずもなかった生徒同士の争いがどこかしこで見受けられるようになった

と、苦情を口にしていた同僚の言葉を思い出すも、否定できない箇所も確かにあり、僕はそのときどんな表情をすべきか迷ったのである。


「お待たせいたしました。本日のカナッペは旬野菜のグリル焼きにございます」


厨房を出て、迷いのない足取りでいつものように訪れたそこは、正直なところ何度足を踏み入れても落ち着くことはない。なにせ、この学園において頂上となる方々のために、特別に設けられた席なのだ。
上座に腰掛け、英字が羅列する本に目を向けていた彼は、ゆったりとした動作でカナッペを眺めたあと、こちらを見上げた。


「今日もシェフの腕は確かなようだな。だが、これではワインの一つでも楽しみたくなるが?」


ぱたん、と本を閉じ、不敵に微笑む彼――神宮寺明臣(じんぐうじ あきたか)さま――に、僕も同じようにゆったりと微笑んだ。




 


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