――細い路地裏を通って行った先には転々とネオンの光る店が並ぶ。
人はその通りをネオン通りなどとまんまな名前で呼んでいたが、その通りから少し離れたところには未成年たちが足を運ぶクラブやバーが点在していた。
その中でもひときわ客足が多いのは、三階建ての小さなビルの地下に設けられたクラブ、デスリカ。
だが最近、その売り上げを追い越さんばかりに勢力を伸ばす店があった。
それはデスリカよりさらに地下に設けられたバー、カシスト。
エレベーターの扉が開くと同時に店内であるそこに足を踏み入れれば、すぐ右横の壁にはこんなポスターが貼られている。
〔バイト、募集中〕
世界にたった一つしかない、言わずもがな雄樹手作りである。
「トラちゃーん、卵味噌二つちょーだぁい」
「こっちは中華二つくださーい」
「トラちゃん、アタシたちは梅二つと卵味噌三つねー」
今日も元気な非行少年少女やら、大学デビューしたての輩が笑う。その頬はみな赤く、一目で酔っていることが分かった。そんな姿に微笑んでからお粥を作りはじめると、俺の隣に立っていたバイトの凰哉(こうや)が注文をメモしながら笑う。
「今日も大人気ですね、小虎さん」
「まぁな。悪いけど出来たやつから出してくれる?」
「はい」
にっこり。笑みを返して鍋を火にかけると、スタッフルームの扉が激しい物音を立てて開いた。中から飛び出してきた学生服の少年は、若干泣きの入った青い顔で走り去る。そんな少年のあとにつづき、のそりと怖い顔をして現れた仁さんは、口に咥えていた煙草を歯で噛み潰していた。
「お疲れ様です仁さん、またダメだったんですか?」
「クソガキ共が舐めた態度取りやがって、あー……今になって玲央目当てのヤツ面接してた司の気持ちが分かった」
「あはははは」
カウンター内にやって来た仁さんに声をかければ、怒りと疲れの交じるものすごい表情で遠くを睨む仁さんについ笑ってしまう。仁さんはそんな俺の頭を軽く小突いたあと、ギロリと容赦なく凰哉を睨んだ。
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