線を越えてしまってもいい。その共有された気持ちは荒々しい肉欲へと変わり、一切の自制をかなぐり捨てた互いの唇は、まるで離れることを許さない。
なんどもソファーに押し付けられた。なんども床に引きずり倒された。なんども壁際に追い込まれた。体のあちこちに走る痛みなど分からない。ただ、この手に届く布地の感触が煩わしくて、うっすら汗ばんだ肉体を望んで爪を立てる。
歩きもせず、走りもせず、運ばれることもなく、一分一秒さえ惜しいと絡まりながら訪れた寝室で、中途半端に脱がされた服を投げ捨てた獣から、滴る香気に誘われる。ベッドに手をつきその汗を舐めとると、唸った獣が俺の服に手をかけた。
ふっ、ふっ、と浅い呼吸を繰り返し、こちらを見下ろす獣。あぁ、可愛い人。呟きかけた言葉を飲み込み、ゆったりとその手に自分の手を重ねて上へと導けば――獣は許容の無い瞳で服をたくし上げた。
「あっ、ん、はっ、あ……っ」
「はっ……どこもかしも甘いな、お前は」
己を守る鎧をすべて失い、貧相な肉体を晒した俺の体はじっとりと濡れていた。
見られるたびに興奮して汗が滴り、真っ赤な舌が唾液を絡ませ行き来する。一箇所一箇所、丁寧に舌で愛撫する玲央の唾液が、手先から足の先まで満遍なく俺の体に染み透る。
うつ伏せにされた俺の、特に背中を執拗に舐める玲央は時折首筋を噛みながら、行き場のない快楽に身悶える俺を凝望していた。
「んっ、れ、お……っ」
「どうした?」
舌先と、その牙で与えられる心地の良さはゾッとするほどに甘美で、もどかしい。
背中の中心をねぶられ、腰の辺りを撫でられた刺激ですでに気をやってしまった俺にとって、その快楽はもう優しすぎるのだ。
黒いシーツの上で下腹部を白く汚した俺の腕を掴み、そのまま横向きにされた俺の情けない姿を、獣は下唇を舐めながら笑んだ。
「またイクのか?」
「ふっ、ん……る、せ……っ」
「強請れよ、小虎」
と、意地悪に笑う獣の瞳は弧を描く。
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