「やっほー小虎くん、中華粥くださーい。ついでにデスリカに転職しない?」
「てめぇ司、なに勝手にうちのスタッフ誘ってんだ」
ニコニコと微笑んだまま、仙堂さんと新山さんのあいだに割って座る司さんの自然な誘いに若干引いていると、すぐ横から仁さんが釘を刺してくる。
「えー、だってこっちより待遇良いよ? それにデスリカだって小虎くんのお粥は不動の人気だしさぁ。玲央っていう金ヅルもあんま来れなくなったし、次の手を打つのはオーナーとして当然じゃん?」
「金ヅルが来なくともてめぇの店はうちより倍稼いでんだろうが」
「あははっ! 当たり前じゃーん。うちが玲央いなくなったごときでここに負けるとか? ないわー」
「……ぶん殴りてぇ……」
仁さん、落ち着いてください。苦笑を浮かべる俺の声に渋々身を引いた仁さんに比べ、「ざまぁ!」みたいな顔をしている司さんは年齢不相応である。
そんな司さんだが、玲央が以前よりも足を運ばなくなったデスリカを今でも人気店の地位に立たせる手腕は見事だと思う。たとえそれが、ブラックマリア解散後、それを目標に新たにチームを作り上げた少年たちを利用している悪趣味なやり方であろうとも。
「あ、でも俺もここ気に入ってるから、頑張って続けてねぇ仁くぅん」
「……気色わりぃ」
語尾にハートが付きそうなほど甘い声で囁かれた、(恐らく)司さんなりの激励の言葉に本気で鳥肌を見せる仁さんに、司さんの両隣に座る新山さんと仙堂さんまでげんなりとしている。ついでに男子諸君らは食べかけのお粥や飲んでいたお酒を噴いていた。
やべぇ俺新しい技を身に着けたよ小虎くん、とかなんとか嘘くさい笑顔で喜ぶ司さんだったが、それから十分後、青筋を立てながら現れた豹牙先輩に首根っこを掴まれ、大人しく去って行ったのであった。
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