それまで黙っていた玲央はなにも答えず、顔を隠す様に少し俯いたまま俺をゆっくりと抱きしめた。首元に埋められた玲央の髪に頬を寄せると、鎖骨に吐息がかかってくすぐったい。
「知ってる」
ぽつりと呟かれた、若干掠れた低い声。なんだかいっぱいいっぱいなその声音に、思わず微笑んでしまう。
「うん、俺も知ってる」
「……」
この揺るがない信頼は、俺と玲央が生きてきた証。
なんども挫けそうになって、そのたびたくさんの人に救われながら、それでも二人で選んできた未来。
苦しんで、悩んで、もがいて、馬鹿になって、だけど決して見失うことのなかった家族の形。
「俺、変でもいい。変だって言われてもいい」
俺と玲央の周りの人間がこの関係に指をさし、非難するとは思わない。けれど世間という強大な敵を前にして、自分たちが正常であるなどとも思わない。
「玲央が好き。家族としても、弟としても、俺個人としても、玲央が好き。大好き」
「……っ、あぁ、」
とめどなく溢れる愛しさは、きっと尽きることなんかなくて。むしろ何十にも積み上げてきた思いの形は、ひとたび言葉にするともう、止まることはない。
「好き……玲央が、好き」
「……、」
「大好き……」
たどたどしくも音を立てながら、頬を支える手の平に何度も唇を寄せる。金に輝く髪の毛にうっとりと目を細めながら、肺いっぱいに香りを吸いこむ。
穏やかに脈打つ鼓動の物足りなさに、髪の毛から覗く耳をかじった。
「――っ!? ふっ、んぅ……!」
「はっ、……く、そっ」
瞬間、顔を上げた玲央に勢いよく噛みつかれ、僅かにできた唇の隙間から息を漏らす。いつのまにか密着していた体を掻き抱くようにして、世界のことが頭から消えた。
余裕のない舌の動きに翻弄されながら、心の中でそっと玲央の気持ちを問う。
はぁっ、と堪えきれずに漏れ出たような吐息を晒した玲央と、やっと目が合った。
「愛してる」
たった一言なのにどうして、どうしてこんなにも満たされていくのか。パキリと小さな音を立てて、俺の世界が玲央一色に染まる。
――あぁ、ねぇどうしよう。こんなにも愛おしい。
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