ゆっくりと、ゆっくりと、いつもとは違うたおやかな動きに目を細め、輪郭をなぞるようにして頬まで下りた手の平に自ら身を寄せる。
香水や石鹸とは違う、玲央から発せられる匂いは蠱惑的なのに伸びやかで、こんなにも俺を安心させてしまう。
「……きもち、い」
言葉にするとやっぱり簡単なことで、だけど他のなによりも正しい俺だけのもの。俺だけの、気持ち。
ほぅと息を漏らしながら玲央の手に自分の手を重ねる。熱いのに心地が良くて、頭が溶けちゃいそうだ。
「……れお、」
「……どうした、眠そうな顔しやがって」
「はは、うん……気持ち良くて、眠くなっちゃう」
「……」
流れるたった一秒すら愛おしい。煙草を消していた玲央のもう片方の手が、俺の腰をゆるりと抱いた。
「好き」
「……」
「玲央にこうされるの、やっぱり好きだなぁ」
「……知ってる」
呟きに応えた玲央の言葉に微笑む。
「俺も、知ってる」
恐ろしいほど不安はない。戸惑いもない。疑う余地などまるでない。
言葉にせずとも、形にせずとも分かってしまう無意識の信頼が今、やっと産声を上げた。
本当はもっと前から生まれていたのだ。けれどそれを認めるだけの自信も強さもなにもなかった。この人の隣に並びたい、そう願う単純な理由のはじまりは弟という立場であることに変わりはないけれど。
でも、それでも他の誰より認めて欲しいと願う俺を、肯定したのもアナタだ。
それさえあれば無敵になれる力をくれたのも、やっぱりアンタだ。
「だから、安心する。玲央にこうして触られると、すごく……安心する」
きっと俺はもう戻れないところまで来てしまった。
この温かさを、優しさを、愛おしさを、もう知ってしまったから。
振り返る暇すらないほど、ただひたすらにこの背中を追いつづけていたから。
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