「でもノアは麻薬組織の一員だと君は聞いてたはずだね? なら一緒に写っていた男がその組織の一人だと警察が知っていたんじゃないかな?」
吐いたことで調子が戻ってきたのか、眼鏡を光らせる司さんが口元を歪めて微笑む。
「そうですね。警察がそう知っていたのなら、あの写真は俺を重要参考人に仕立て上げる証拠として意味を持ちます」
「だろう? なら君の推測は……」
「でもそれは、動画を見せられた時点で消えました」
「え?」
蛇口をひねって水を止める。タオルで手を拭いてから息をつくと、仁さんがそんな俺に水を渡してくれた。礼を言って飲み干すと、体の奥に染みわたる。
「緑のカーデを着た男に、巴さんが拷問まがいなことしていたでしょう?
それはつまり、司さんはあの男を捕える術があったということです。そして男を捕える術を持つ司さんが、ノアさんを捕えられないわけがない。
だからあの写真を俺に見せたのは、俺を大人しくさせる為だったんじゃないですか?」
「……予想以上の信頼に感謝はするけれど……小虎くん、その推測はずいぶん穴だらけだってこと、分かってる?」
「なに言ってるんですか? 俺はそもそも謎解きをしたつもりはありませんよ? なにが正解かも、なにが間違いかも分かりません。でも今回、俺が利用されただろう可能性を話しているだけです」
「……なるほど、ね」
なんども言うように、俺は馬鹿だ。高校生探偵なんて謳われる頭脳など持ち合わせてはいない。人より理解力も遅く働き、簡単に騙される。
だけどそれは、正誤関係なく考えられる時間がたっぷりあるということだ。
「そもそも、警察である新山さんがあの拷問まがいを許していた時点でおかしいでしょう? なぜ法の裁きを下せるよう逮捕しなかったんです?
そういった諸々の点から、俺は考えました。
写真ではノアさんを写してはいけない理由があった。動画では巴さんがあの男に拷問まがいなことをしたい理由があった。新山さんにはそれらを黙認するほど警察にも隠しておきたいなにかがあった。
そしてそれを上手い具合に繋ぎ合わせ、司さん……アンタは俺を、みんなを利用した……違いますか?」
にっこり。微笑む俺に司さんは顎に手をやり、考え込む。
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