それから泣き止めずにいたノエルさんは、持っていたトランクケースをとても大切に扱いながらカシストを発った。
俺と豹牙先輩はお粥を持って、新山さんと仙堂さんも一緒にデスリカへデリバリーである。
先を歩く二人の背中の大きさに、ちょっと歳の違いを感じながら手に持ったお粥を持ち直すと、扉を開いて中へ促す二人が俺を見ていた。
オーナールーム。
以前一度だけお邪魔したことのある部屋の中をぼんやり思い出しながら、俺は中へ足を踏み入れた。
中は相変わらず閉鎖的で、唯一変わったとしたら玲央が壊したソファーが新調されているくらいだろうか。
そんなソファーには司さんと巴さんが座っており、一人掛けソファーには眉間にしわを寄せた玲央が座っている。
「やっほー、小虎くん。元気?」
「どうも、司さん。めちゃくちゃ元気ですよ」
「あはは、そう。じゃあまぁ、座ってよ」
「はい、失礼します」
ガラステーブルを挟んで、三人掛けソファーの端に腰を下ろす。とくに意味はないのだが、出入口に近い一人掛けソファーに腰を下ろす玲央の一番近くにしておいた。そんな俺の隣に豹牙先輩が座り、その隣には仙堂さんが、そして新山さんは一人だけ背もたれもない丸イスである。
「俺の扱いひどくない?」
そう呟く新山さんの言葉に、当然とばかりに誰も反応しなかった。
さて、と空気を変えるように手を叩いた司さんが笑う。
「小虎くんは誰に説明して欲しい?」
無邪気さの裏から覗く人の悪い彼の性根に呆れながら、俺も同じように無邪気な笑みを浮かべてみせる。
「お粥、デリバリーしに来ました」
「は?」
座っておいて説明聞かないの? と顔にかかれた司さんの間抜けな面に笑みを浮かべつづけたまま、俺は持って来たお粥を彼の前に置いた。
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